05.艶やかさと初々しさ
5/7

 入れ違いで風呂に入りシャワーを浴びた。正直ちょっと興奮し過ぎて水を被ってしまった。先に出ていた雪近は俺と同じく腰にバスタオルを巻いただけで、無防備に素肌をさらしている。いままで一度も裸なんて見たことがなかったから、それだけでもう変に気持ちが高ぶってしまって、落ち着けるのが大変だ。

 こんな思春期の中高生みたいな反応はかなり恥ずかしい。なるべく彼の前では大人な対応したいと思うのはなけなし男の意地。けれどそんな吹いたら飛びそうな意地は、ベッドで寝そべる雪近の背中を見ているとポッキリと折れる。
 健康的な肌色。痩せた印象もなく、適度についたしなやかな筋肉。背中から腰にかけてのラインがやけに色っぽい。タオルの裾から伸びる脚もすらりとしていて、触れてしまいたくなる。
 携帯電話をいじっている横顔をじっと眺めながら、しばらくそこに立ち尽くしてしまった。

「……あ、大悟さん。上がったの?」

「ああ、うん」

 じっと舐めるように見ている邪な視線に気づいたのか、ふいに顔を上げた雪近が振り返る。やんわりと微笑んだ顔が可愛くて、鼻の下が伸びそうになった。気恥ずかしくて視線をそらしたら、楽しげに小さく笑われる。しかしいつまでも突っ立ているわけにもいかず、ベッドまで行ってその端に腰かけた。そしてこちらを見ている艶やかな黒い瞳に誘われるままに手を伸ばす。
 髪は乾かしたのかもうさらさらと音を立てそうなくらい指通りがいい。前髪を指先でかき上げてまっすぐに見つめたら、うつ伏せていた身体を持ち上げてこちらに身体を寄せてくる。目の前にまで迫ると、口元が綺麗な弧を描いて笑みをかたどった。それに引き寄せられるように柔らかな唇に口づければ、ふんわりと甘い香りがした。

「湯冷めしてない? 大丈夫か?」

「平気、大悟さんこそちゃんと温まった? なんか冷たいよ」

「あー、うん。今日は暑かったから」

 手を重ねた雪近は心配そうな顔で首を傾げる。けれどやましい気持ちを見透かされそうで合間に笑ってしまった。

「まあ、これからもっと熱くなるようなことするけどね」

 目を細めて笑うその表情があだっぽくて、また心臓が早鐘を打ち始める。四つん這いになっているから、視線を下ろすと胸元やくびれのある腰がやけに目につく。これはもはや視覚の暴力だ。
 ベッドの上に乗り上がり、引き寄せるように腰を掴んだ。すると雪近は胡座をかいた俺の脚の上にまたがる。近づいた身体。ほのかに感じる体温。それに引き寄せられて、首筋に顔を埋めた。唇を伝わせ、時折舌で撫でる。そして薄い皮膚に歯を立てれば、肩に置かれた手に力がこもった。

 その小さな反応がいじらしくて、もっとそれが見たくなる。背中に回した手でなめらかな肌を撫で、タオルの隙間から腰へ手を入れるとほんの少し肩が跳ねた。見上げてみれば、頬を赤く染めながら見つめられる。

「大悟さん、もっと触ってよ。早く欲しい」

「そんなに煽るなよ。優しくできないだろ」

「優しくなんてしなくてもいいよ。大悟さんの全部で、俺の隙間を埋めてしまいたい」

「そういう可愛いこと言うな。ったく、小悪魔め」

 好きな相手にこんな風に煽られてその気にならない男がいるだろうか。まっすぐに光を含んだ宝石みたいな瞳に見つめられて、心が絡め取られたみたいになる。腰を抱いて、ぐっと身体を前に倒せば、雪近は抵抗もせずにベッドに沈んだ。
 白いシーツの上に柔らかな黒髪を散らして、じっと俺だけを見つめるその表情に心が揺さぶられる。投げ出された左手を持ち上げて、そっとその指先に唇を寄せた。優しくしたい、大切にしたい。そんな想いが膨れ上がるけど、その心と相反した想いも生まれる。熱情のままに抱いて、すべてを腕の中に閉じ込めたいと思う感情。

「ほかのこと考えられなくなるくらい、俺のこと見てよ」

「馬鹿、もうお前のことしか見えないくらいだ」

 両手を縫い止めれば、至極満足げに目を細めて笑う。あまりにも綺麗に笑うから、その顔を歪めたくなってしまう。手を滑らせて首筋から、胸元まで優しく撫でた。そして期待するような目に見せつけるように胸の尖りを押しつぶす。唇を寄せて舌で舐ると、それはツンと立ち上がる。

「大悟さん、俺、そこはあんまり」

「ん? もしかして、あんまりいじられたことないんだ? じゃあ、よくなるまで可愛がろうかな」

「え! そこばっかり、いやだ」

 恥じらうように目を伏せたその顔が可愛くて、口先ばかりの否定を受け流した。舌先で転がしながら、時折やんわりと歯を立てればむず痒そうに腰をくねらせる。乱れたタオルの隙間から手を忍ばせて太ももを撫でると、小さく腰が跳ねた。引き締まった脚と小ぶりな尻を撫で回して、胸の尖りを執拗に舐めしゃぶる。

「雪は痛いほうが気持ちいいの?」

「ち、違う」

 少し上擦ったような声が聞こえるけど、言葉とは裏腹に赤く腫れてきたそこは触れて欲しそうに見える。わざとらしく音を立てて吸い付き、唇で挟んで引っ張ると小さな声が漏れ聞こえてきた。指先できつくつまみ上げれば、腰が焦れるように揺れる。最初はくすぐったそうにしていただけだったが、いまはもう舌で撫でるだけで吐息を漏らす。
 忍ばせていた手を中心へと持って行くと、すでに布を押し上げそり立っていた。ぬるつくそれを手のひらで包んで扱けば、内ももが震える。

「雪、素質あるよ。そのうちここだけでイケるんじゃない?」

 胸の刺激と直接的な刺激で、雪近の熱はとろとろだ。腰に巻かれていたタオルを乱雑に引き剥がすと、隠れていたそれを明かりの下にさらす。先走りで濡れた屹立は筋を浮き立て卑猥なほどだ。ゆっくりと指先でなぞりながら扱くと、雪近の手がシーツを強く握る。

「こっちは優しくされるのがいいんだ?」

 涙目になった瞳でこちらを睨むように見つめるけど、もうそれは気持ちを煽ることしかしない。でもこのまま生殺しみたいにもてあそぶのも可哀想だ。てっぺんに軽くキスをすると、震える熱を喉奥まで飲み込んだ。
 途端に雪近の身体に力が入る。逃げるように腰を引くけど、逃がすまいと両手で腰を引き寄せた。喉と舌で張り詰めた熱を刺激して、少し乱暴なくらいに唇で扱く。

「ぁっ、だい、ごさん、やだ。あっぁっ、ん」

 しがみつくみたいにシーツを掴んで、快感を逃そうと首を振る。浮かんだ涙がこぼれ落ちていくのが見えて、ひどいことをしている気分になった。さらにじんわりと浮いた汗で頬に髪が張り付いて、ちょっと色気がすごいことになっている。しかしやめる気にはなれなくて、追い詰めるように刺激を強くした。
 この様子だとあまり奉仕してもらうことはなかったのかもしれない。愛撫に身体がまったく慣れていない。いままでは突っ込んで吐き出したらおしまい、みたいなことの繰り返しだったのだろう。そう思うと、とことんドロドロに甘やかしたくなってくる。

「雪、音を上げるのは早いぞ」

「大悟さん、意地悪だ」

「触ってって言ったの、雪だろ?」

 手についたものを舐めながら見下ろすと、きゅっと下唇を噛んでふて腐れたような顔をする。でもそれが可愛過ぎて、こちらは思わずニヤニヤと笑ってしまう。我ながら下衆な笑い方をしているような気がして、ちょっと雪近が可哀想に思えてくる。だけど可愛くて仕方がないのも本当だ。
 いつもなら隙のない男らしさがある雪近が、自分の下で肌を朱に染めながら身悶えている。自分より格上の男を組み敷いているというのは、普段は持ち合わせていない支配欲が湧き上がってくる感覚だ。

「なあ、雪、もっと声聞かせて」

「いや、だ」

「雪のいやだはいい、の裏返しだな」

 揶揄するように笑い、だらだらと涙をこぼす熱に舌を這わせる。最初は優しく反応のいい場所を丹念に刺激していく。けれどだんだんと吐き出される息が熱くなり、上擦る声に甘さが含まれてくると、あふれ出す入り口に舌先をねじ込んだ。
 ぐりぐりとこじ開けるように舌を押し込むと、息を飲んだの感じる。チラリと視線を上げて表情を盗み見れば、眉を寄せて切なそうな顔をしてはいるが痛みばかりではなさそうだ。もしかしてやっぱり痛いのは嫌いじゃないのか。
 鈴口をいじりながら筋を撫でてやると、手がべたつくほど濡れる。伝い落ちるそれは繁みを濡らして奥までこぼれていく。

「後ろまでびしょびしょだな」

「あぁっ、ん」

 伝い落ちていく流れのままに指を這わせて、窄まりにたどり着く。風呂場で慣らしたのだろうそこは力を込めると、簡単に指先を飲み込む。入り口で何度も指を抜き挿しすれば、小さな孔は指先を銜え込むような動きを見せた。

「雪、すごくいやらしい」

 先走りを指にたっぷりまとわせると、一気に二本ぐっと押し込んだ。容易くそれを飲み込んだそこを見ながら、知らぬ間に口の端が持ち上がる。指の腹で内側を撫でて奥まで押し進めていけば、身体の奥、前立腺まで届いた。
 やんわりとそこを優しくこすると、雪近の身体が大きく跳ね上がり、また逃げ出そうともがく。けれど張り詰めた熱をきつく扱けば、震えながら甘い声を漏らす。その声を誘うように再び口で熱を刺激し、内側まで追い詰めていく。

「雪、声」

 肩を震わす雪近の腰を指先でなぞると、引き結んでいた口から小さな嬌声が漏れ始める。加虐心を煽るような涙声は、ますます俺の気持ちを高ぶらせていく。縋るような声で何度も名前を呼ばれ、その声がもっと聞きたくなって、しつこいくらい愛撫を繰り返した。

「駄目、大悟さん、離して。ん、もう、イク、やだ、離して」

 熱がいまにも弾けそうなほど膨らむ。けれど上から振ってくる声は無視をして、腰を掴んで咥えたまま頭を上下させる。押し込んだ指もじっくりと奥を開かせるようにゆっくりと動かした。

「やだ、大悟さん! いや、いやだっ、ぁっ、ああぁっ」

 身体がぶるぶると震えてシーツを握る手が白くなる。切羽詰まったような声を漏らし、雪近は太ももを痙攣させながら果てた。口の中に吐き出されたものがあふれるが、そのまま喉奥に飲み込んだ。
 口元を拭いながら身体を持ち上げれば、ぼんやりとした目のまま雪近が荒い呼吸を繰り返している。上気した頬には涙の跡が見えた。けれど手を伸ばしてなだらかな身体を撫でると、小さく肩を震わせる。赤く色づいた胸の尖りを押しつぶせば、潤んだ目でこちらを見ながら掠れた甘い声を上げる。それを見ているだけでひどく興奮した。

「雪、もっと声が聞きたい」

「大悟さん、ずるい」

「だって、雪が可愛いから」

「ずるい。俺も大悟さんが気持ちいい顔してるの見たい」

 ムッと顔をしかめるそんな表情まで可愛くて、口元がにやけて仕方がない。しかし機嫌を取ろうと近づけば、伸びてきた両手に抱き込まれた。そして押しつけるように口づけられる。驚いて目を丸くする俺などお構いなしの雪近は、口内に舌を滑り込ませると口の中の残骸を舐め取った。
 食らい尽くす勢いで口づけられて、二人分の唾液が口の端からこぼれ落ちる。

「雪?」

「今度は俺の番だよ」

 抱きつかれたまま身体に体重をかけられると、バランスを崩して俺の身体が後ろへひっくり返る。今度は雪近が俺にまたがり見下ろしてきた。にんまりと口の端を上げて、俺を見下ろす雪近の表情は雄そのものだ。そのあふれんばかりの色香に思わず息を飲んでしまった。

リアクション各5回・メッセージ:Clap