03.片想いの行方
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 道すがら騒ぎながら四人で店に着くと、予約をしていた席に通される。身体の大きな小津に考慮してソファの六人掛けテーブル席。奥に勝利と鶴橋が向かい合わせに座り、手前に光喜と小津が座る。頼んだ生ビールが届くととりあえずお疲れさまとジョッキを合わせた。

「あのさ、随分親しい感じだけど、勝利は小津さんとよく会ってるの?」

 ごく自然に会話を進める三人の様子にこっそり光喜が耳打ちすると、隣に座っている勝利が振り向く。

「ああ、小津さんは鶴橋さんの古い友達でさ、最近三人でよく会うんだ。だから光喜にも紹介しておこうと思ったんだよ。ね、鶴橋さん」

「あ、はい。笠原さんが光喜さんの話をよくするので、修平が会ってみたいって言い出したんですよ」

「ふぅん、そうなんだ」

 鶴橋と勝利が自分の話をするのはなんとなくわかる。しかし三人の会話の中に含まれる理由がわからない。小津と光喜に共通点など一つもないはずだ。それなのになぜ? ふいに光喜の中に疑問が浮かぶ。
 ビールに口を付けながらちらりと目の前に視線を向けると、その視線に気づいたのか小津が光喜を見る。そしてまたやんわりと微笑んだ。

 身体は大きいが威圧感はない。動物園にいる温厚な熊という印象。髪はこざっぱりとしているし、身なりは簡素なシャツにジャケットではあるが、よれた感じもなく清潔感がある。落ち着いた雰囲気の鶴橋と友達だと言うからには、見たままの性格なのだろうと光喜はしげしげと観察をする。
 けれど見たところ特に自分に害があるわけでもなさそうなので、まあいいかという結論に達した。

「光喜くん、なにか嫌いなものとかある?」

「特にはないよ。好きなもの頼んで平気」

「そっか、僕はね、チーズが苦手なんだけど。このあいだ冬悟に桃モッツァレラを出されて、僕が嫌いなのを忘れてるんだなと思って黙って食べたんだけど。それが意外にもおいしくて」

「修平、結局一皿食べましたよね」

「うん、新しい発見だった。蜂蜜かけてあるのがまたおいしかった」

 蜂蜜が好きだなんてますます熊みたいだと口に出しそうになったが、光喜はそれ飲み込んでまた作り笑みを返す。けれどそんな笑みにも小津は優しく笑った。なんだか穏やかなその瞳に自分を見透かされているような気になって光喜はすっと視線を落とす。
 自分の内側を覗かれるのが光喜は苦手だった。

「ねぇ、勝利、今日はアパートに泊まってもいい?」

「はっ? なに言ってんの。俺んちは隣駅、お前んちはここから十分だろ」

「じゃあ、明日休みだしうちに泊まってって」

 気持ちを紛らわすように隣の肩に頭を乗せたら、ものすごく呆れたようにため息を吐き出される。けれど文句を言いながらも勝利が頷くことを光喜はわかっていた。ちらりと目の前の鶴橋と目配せをして、向こうが頷くと小さくため息をつく。

「お前が床な」

「えー、なんなら一緒に寝てもいいよ」

「お前かさばるから邪魔」

「勝利はコンパクトだから平気だよ」

「馬鹿にすんなこの野郎!」

「あはは、わかったってば、俺が床ね」

 思いきり肩で頭をはねのけられて、押し離すように片手で避けられた。けれどしかめっ面している勝利の片腕に抱きついて光喜は至極楽しげに笑う。しまいには何度も額を叩かれたが、それでもべったりとくっついた。
 片想いをして二ヶ月と少し。叶うはずのないこの恋に諦め悪くしがみついている。

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