71.先走る気持ちと冷静さ※
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 それ以上はいけないと思うのに、高ぶる熱を手のひらに押しつけてしまう。自分とは違う感触は思っているよりも興奮させられる。できるなら直接触って欲しいけれど、さすがに光喜にもそこまでの度胸はない。
 仕方なしに自分の手を突っ込んでトロトロと蜜をこぼす熱を扱く。いつもより敏感になっているのか、声が上擦るほどに気持ちがいい。しんとした部屋の中に光喜の熱を帯びた呼気だけが響く。

「……ぁっ、んんっ。……はあ、俺ってサイテー」

 吐き出されたもので手が汚れる。それを見つめて光喜は大きく息をついた。眠っている人の上でなにをしているのだという冷静さが戻ってきて、肩が落ちる。傍にある箱を引き寄せてティッシュを引き抜くと、それでゴシゴシと手を拭いて丸めたものをくずかごに放り投げた。
 けれどそれでも離れる気にならなくて、胸の辺りに抱きつく。耳を寄せると心音が聞こえて気持ちが穏やかになる。しかし身じろがれて慌てて起き上がった。

「ん? あれ?」

 ふいに感じた違和感。またがった腰辺り、そこに感じるものに気づいて光喜は素早く下のほうへ移動する。小津が穿いているのはデニムなのでわかりにくいけれど、窮屈そうな膨らみ。そっとそこを撫でたらさらにむくりと反応を示す。
 ちらりと視線を上げて起きていないことを確認すると、ボタンを外してファスナーを引き下ろした。そうするとそこにははっきりとわかる兆し。

「酔うと勃ちが悪くなるって言うけど、全然元気そう。なんでこんなに元気になっちゃったの? もしかして俺のせい? んー、デニム穿いたまま寝たら血行に悪そうだよね」

 言い訳をつぶやきながらもう一度、寝ているのを確かめて四苦八苦しながらデニムを引き下ろし、それを足先から抜いた。脱がせたものは畳んで脇に寄せる。
 そしてトランクスのウエスト辺りを引っ張って引き下ろすと、ぶるんと顔を出したものに光喜は目を瞬かせる。さらにそれをじっと見つめて小さく唸った。

「やばい、想定していたよりも大きい。こんなに間近に他人のもの見るの初めてだ。ごめんね、小津さん」

 好奇心が先走って目の前のものに手を伸ばしてしまう。緩く手を上下するだけでそれはビクビクと反応を示した。誘われるように唇を寄せると光喜は先端にキスを落とす。そしてゆっくりと舌で愛撫する。

「ぅんっ、さすがに口でするのは難しい」

 咥えようと思ったけれど太さもさることながら長さもある。唇と舌を使うだけで精一杯で、口になかなか含めない。けれどそれに反応が返ってくるだけで気持ちが高ぶる。はあ、と息を吐くと光喜は身体を起こしてベッドの下へと手を伸ばす。

「……据え膳を逃すのは、もったいない、よね?」

 酔ったテンションが判断を狂わせる、それは悪魔の囁き。散々布団の前で悩んだ小一時間前の自分が隠していたものをたぐり寄せて、おもむろにスウェットと下着を脱いだ。風呂に入った時に晴の言葉を思い出し後ろの準備はしてあった。しかしその奥に触れるのはこれで二度目。
 もう初めてと言ってもいいくらいだが、疼き出した身体と高まる感情は治めようがなかった。再び猛る熱に舌を伸ばしながら、ローションをまとわせた指で少しずつ解していく。

「はあ、んっ」

 三本の指を飲み込む頃には汗が混じったローションが滴って、舌を動かすどころではなくなっていた。それでもなんとか身体を持ち上げると、萎え始めていた熱を扱いてゴムを付ける。正直言うとここでもう力尽きてしまいそうだった。それに加え冷静さが再び戻ってきて、なけなしの良心が痛む。

「もう、俺なにしてるんだろう。ちゃんと起きてる時にしたかったかも。晴の言葉に焚き付けられちゃったけど。やっぱり、こういう一方的なことは良くないよね。……ねぇ、小津さん、起きて」

 小さく呟きながらゆっくりと身を屈める。そしてうっすらと開かれた唇に近づくと、もう一度名前を呼んだ。するとふいに小さな唸り声を上げた小津のまぶたが震える。それをじっとのぞき込んでいたら、ゆるりと開かれた瞳に見つめ返された。

「……小津さん?」

 思いがけず目を覚ました小津に跳ね上がった心臓が激しく動き始める。けれどうろたえる光喜をよそに状況を確認しようとしているのか、視線が身体に向けられた。下半身を剥き出しにしてまたがっているこの状態は、なにも言い訳ができない。
 けれど肩に触れた手に押し離されると思った光喜の身体はぐるりと反転する。それに驚いて目を瞬かせた時には、見下ろしていたはずの小津に見下ろされていた。

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