一緒にいるためにできること

 チチチッと小鳥のさえずりが聞こえる。まどろみの中でウトウトしていると、ベッドが軋んで、こめかみにキスを落とされる。 そのまま寝たふりをしていれば、さらに頬や鼻先に口づけられた。 次第に悪戯するように、Tシャツの中に手が滑り込んだので、礼斗…

ゆっくり優しくして

 恥ずかしさが増して、ジタバタともがくけれど、直輝は礼斗を押さえつけたまま離さない。それどころか彼は瞳に熱を灯らせる。「いきなりスイッチ入れんな!」「弱ってるアヤを見てたら、ムラムラしちゃった」「サイテーだな!」「あ、でも身体が辛いか。熱が…

鬼の霍乱

 すぐにと部長が言っていた通り、新しい社員がやって来たのは、あれから一ヶ月もしないうちだった。 直輝は引き継ぎをするために、しばらく残ることになったが、そのあとはいったん元の会社へ戻る。しかし本人の口から、その後の詳しい話はいまだ聞かされて…

平穏の中の黒いシミ

「だから! なんでわかんないのかな!」「あんたこそ、もうちょっと頭を使え」「アヤは頭が硬すぎるんだよ。もう少し柔らかくしたら?」「あんたが自由すぎるんだ」 関係を元に戻したからと言って、日常が大きく変わるわけではない。今日も今日とて、会議室…

ずっと傍にいる

 笑ったら笑ってくれる。原理としては確かにそうだが、いざ意識するとタイミングが見当たらない。 そもそも礼斗は、笑みを浮かべる表情筋が死んでいると、親にまで言われたことがある筋金入り。 せっかく綺麗に産んであげたのにと、母親が嘆いていた。そん…

ぎこちない笑顔

 まだ一度しか歩いていない、慣れない駅までの道。ただ隣を歩く、それだけのことがもどかしいような、居心地の悪いような気持ちになる。 いま付き合っている人はいるのか? そんな問いかけすら、素直になれない礼斗は言葉にできない。そもそも復縁を切り出…

二人のあいだにある見えない距離

 風呂から上がると、脱衣所にシャツとデニムが置かれていた。半袖シャツはオーバーサイズでも、なんとか着られる。デニムはロールアップすれば、問題ない。 それらを身につけると、やんわりと優しい香りがする。香水などではない、それは柔軟剤の香りだった…

元には戻らない

 微かな陽射し、それに気づいて礼斗がまぶたを開くと、またベランダで小鳥がさえずっている。そっと寝返りを打って確かめれば、隣で眠る直輝がいた。 あのあと、起こしてはくれなかったのかと、ひどく残念な気持ちが心の内に湧く。前回と同じシチュエーショ…

何度も繰り返してしまう

 あれからどれほど飲んだのか、わからないけれど、頭がふわふわとしていた。 自分がカウンターに、突っ伏していることに礼斗は気づいたが、起き上がれるほどの余力がない。 小さく唸り、ぎゅっと拳を握る。するとすぐ傍で、くすくすと笑う声が聞こえた。 …

可愛くない態度

 直輝と二人で、折り合いをつけたサイトのデザイン。そのあともじっくりと意見を出し合い、さらに変更を加えた。 そうして仕上げたものを、取引先へ提出してみたところ、思いのほか大好評だった。「西崎さん、さすがですね」「いや、俺一人でやったわけじゃ…

もしかして未練?

「ちょっと来い」「アヤ?」 怪訝そうな直輝のことは振り向かずに、礼斗はプリンターで出力されたものを、さっと取り上げる。そして先に立って、空いた会議室に移動した。 黙ってついてきた直輝が、扉を閉めたのを確認すると、今度は紙の束で彼の額を叩く。…

思いがけない展開

 目が覚めるとともに、チチチッと、小鳥のさえずりが聞こえる。ベランダに雀が集まっているのだろう。いつも信昭の家には、小鳥が集まる。 餌をやっているわけでもないのに、不思議なものだ。 そんなことを考えながら、礼斗は柔らかなシーツの心地良さに、…