甘恋-Amakoi-/09
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 帯が解かれたことによりすっかりはだけきった浴衣は、もうすでにその役目を果たしていない。肩にわずか引っかかっている程度で、背徳的ないやらしさを倍増させるだけだ。
 さらにハアハアと獣のような息づかいと甘やかな喘ぎ声が混じれば、その場の空気はやけに湿り気を帯びる。しんとした部屋の中にはぬかるむ水音と肌と肌がぶつかる音が響く。

「ぁっ、紘希、もっと、もっとして」

「蒼二さん……すごい、持っていかれそう。締め付けがきついくらいだけど、たまんない」

「んっ、ぁあっ、奥、奥まで、酷くして」

「ほんとやばい。蒼二さんエロ過ぎだよ」

 ぎゅっと指先でシーツを掴む蒼二は、腰を高く上げ激しく穿たれながら腰を揺らめかせる。突き立てるように押し込まれた熱が最奥をこすれば、身体を震わせて艶めいた声を上げた。
 その声と刺激に当てられている紘希は細い腰を鷲掴み、誘われるように何度も腰を突き動かしている。荒い息づかいと甘ったるい声が混ざり、余計に二人の興奮が煽られた。

「こ、うきっ、ぁっ、あんっ、気持ち、いい、もっと」

「んっ、って言うか、俺のほうが気持ちよすぎてやばい。めちゃくちゃうねってしゃぶりついてくる」

「こう、き、紘希」

 首を後ろへ回して振り返る蒼二は、片手を伸ばして紘希に触れようとする。指先が微かに腕に触れると、引き寄せるように力を込めた。
 しかし紘希はその手を掴んでぐっと背後から肩を押す。頭や上半身がシーツに押さえつけられ、蒼二はくぐもった声を漏らす。けれど今度はいきなり両腕を強く後ろへ引っ張られて甲高い嬌声を上げた。

「あぁっ、あっ、んっ、深、いっ、ぁんっ、いいっ、奥に当たってる」

 無理な体勢が余計にタガを外させるのか、喘ぎすぎて締まらない開きっぱなしの口からは唾液がしたたり落ちる。口の端を伝い落ちたそれはぽつりぽつりとシーツを濡らした。
 過ぎるほどの快感に蒼二は髪を振り乱しながら顔を振る。汗ばんだ肌や頬に柔らかく細い蒼二の髪が張り付く。

「あ、イクっ、もう、もうイキそうっ」

 押し寄せてくる波に蒼二はぶるぶると身体を震わせる。内ももが痙攣し、口がはくはくと息をする。それでも紘希は律動をやめず、さらに強く腕を引き寄せた。
 すると身体が引っ張り上げられて胸を突き出すように反り返る。そして引き寄せられるほど突き刺さった熱をさらに奥へと導く。激しく紘希が腰を突き動かせば、震える身体がビクビクと跳ね上がった。

「だ、めっ、紘希、イッてる、イッてるから、それ以上っ、ああぁんっ」

 掴んだ両腕をさらに引き寄せられると、蒼二の身体は紘希の胸元に触れる。そして腕を放されると自重でまた熱を深く銜え込む。下からの突き上げに繋がった部分からぐちゃぐちゃと湿った音が響く。その音に耳を犯されて、唇をわななかせる蒼二のこめかみから汗が伝った。

「待って、紘希。動かないで、あぁっん、駄目、またすぐにイキそう」

「めちゃくちゃにしたいって、言ったでしょ。蒼二さんばっかりいい気分になってちゃ駄目だよ」

 中をかき混ぜるように腰を回されて、びくんと蒼二の肩が跳ねた。先ほどイッた余韻はまだ抜け切れておらず、些細な刺激だけでもまた波を引き寄せる。
 再び律動を開始されるとそれだけでもう身体はすぐに限界を訴え始めた。身体がガタガタと震え、またやってくる先ほどより大きな波に飲み込まれそうになる。

「やだ、待って、こ、うき。あぁんんっ、だめ、あっぁっ」

「んっ、すごくいい。はあ、蒼二さんの中、最高に気持ちいい」

 腰を両手で掴まれて、舐るように腰を動かされた。それだけで背筋に電流が走ったみたいに快感が駆け上る。息ができなくなりそうなほどの刺激に、蒼二はボロボロと泣き始めた。その横顔を見つめる紘希はほんの少し困ったように笑い、こぼれ落ちる涙を唇で吸い取る。

「ねぇ、蒼二さんをもっと味わいたい。もうちょっとできるよね?」

「紘希、キス、キスして」

「いいよ」

 涙の浮いた縋る目で紘希を見つめれば、顎を掴まれ上を向かされる。そして覆い被さるように口づけられた。それは触れた途端に舌が滑り込み、唾液で濡れた蒼二の口腔を貪っていく。

「んんっ」

 舌で粘膜を撫でられるだけで肌がざわめく。ゆるゆると腰を動かされて下と上の刺激にまた蒼二の目に涙が浮かび上がる。しがみつくように腰を掴む紘希の両手に手を重ねると、また一際強く貫かれた。塞がれた口から声にならない声が漏れる。

「蒼二さん、ペースが速いよ。そんなにイキまくってたらもたないよ」

 太ももを震わせて余韻に浸る蒼二をとがめるように、紘希は持ち上げた手で胸の尖りをつまみ上げる。きゅっと力をこめて指先でこねられると、身体をのけ反らせて蒼二はまた絶頂する。

「あ、ぁんっ、紘希、壊れちゃう。気持ちいいの止まんない」

「じゃあ、いまはもっと気持ちよくなってて、俺にもイかせて」

「紘希、抱きしめたい」

「うん、いいよ。待ってて」

 甘えた声でねだる蒼二にふやけた笑みを浮かべる紘希は、しわくちゃになった浴衣は横に避けて、ゆっくりと抱きしめた身体をシーツの上に横たえる。しかし繋がりっぱなしだった熱を引き抜かれると、そこは物足りないと言わんばかりにひくついた。
 それを自分でも感じ取って、蒼二は恥じらうように目を伏せる。けれど足を抱え上げられ、再びぬかるむ中へと熱を押し込まれると潤んだ目で紘希を見上げた。

「その顔、色っぽくてたまんないね」

 奥へ深くへと腰を進めた紘希は蒼二に覆い被さるように身体を傾ける。それを嬉しそうに見つめて、蒼二は両腕を伸ばして背中を抱きしめた。

「ぁっあっ、ぅんっ、きもち、いい。そこもっと、ぁっ、いいっ」

「はあ、蒼二さん、もっと締めて、そう。うん、気持ちいい、あっ、イキそう」

「出して、俺の中に、出して」

 ゆっくりと何度も抜き挿しされると、それを喜ぶみたいに中が震える。締めつけるたびに脈打つ紘希の熱を感じて、蒼二は腰を動かしながらしゃぶるようにきつく紘希を締めつけた。そして深く穿たれると、ゴムの中に吐き出されたのを感じる。それと共に蒼二も中をひくつかせながら果てた。

「や、駄目、抜かないで」

「こら、蒼二さん。駄目だよ、外れて漏れたら意味ないでしょ」

 身体を起こそうとした紘希の背中を蒼二はきつく抱きしめたが、額や頬に口づけを落とされなだめすかされる。けれど身体はイキすぎて力が入らないくらいなのに、まだ足りないと心のほうが満足できていない。不服そうに紘希を見つめたら、肩をすくめて息をつかれる。

「今日はもうおしまい」

「やだ、足りない」

「そんなこと言って、もう全然足腰に力が入ってないよ。壊れちゃうって泣いてたの蒼二さんでしょ」

「そ、それはそうだけど。……まだ足りない。紘希まだいけるよね?」

「俺は平気だけど。でも駄目だよ。明日の朝に起きられなくなっちゃうよ。蒼二さん、ほんと感じやすいよね。俺が一回イクあいだに五回もイッちゃうんだから。自分の遅漏を疑いたくなるよ」

 駄々をこねる蒼二をあやすように撫でる紘希は、ゆっくりと背中を抱き寄せて細い身体を抱え上げる。いきなり持ち上げられた蒼二は目を瞬かせて紘希を見上げた。

「お風呂に入ろう。結構汗を掻いちゃったよね」

「あ、うん。でも歩けるよ」

「嘘ばっかり。腰が抜けてる」

 慌てる蒼二に笑みを返して、紘希は身体を肩に担ぎながら器用に部屋のふすまを開ける。そして前室に出ると、もう一つある格子戸も開いた。
 お互いもう裸なので、脱衣所を通り抜けてまっすぐに奥へと向かう。浴室内は淡い間接照明だけが灯っていて、掛け流しの温泉があふれる浴槽が月と星に照らされながらそこにある。

「熱くない?」

「平気」

 蒼二を湯船に下ろすと紘希もその中に足を沈める。なみなみと湛えられている湯船は二人分の体積で湯が一気にあふれて、浴室の床へと勢いよく流れていく。

「すごい眺め、綺麗だね」

「うん、いまの時間は外も真っ暗だろうから余計に月も星も綺麗に見える」

 後ろにいる紘希の胸元に背中を預けて、蒼二は一緒に天窓を見上げた。手を伸ばしたら届くのではないかと思えるくらいの星に、なんだか癒やされていくような気分だった。
 しばらくぼんやりと星を眺めていると、背後から伸ばされた紘希の腕が蒼二の腰を抱き寄せる。ぴったりと隙間がなくなるくらいに背中がくっついて、蒼二はのぼせそうなほど身体を火照らせた。

「さっきまであんなにエッチだったのに、素に戻ると恥ずかしがり屋だよね。うなじまで真っ赤だよ」

「言わないで」

「蒼二さんは可愛いな」

 顔まで熱くなっている蒼二は俯きながら膝を抱える。湯船に映る自分にもわかるくらいゆでだこのように赤い。熱が冷めて冷静になるといつも蒼二は恥ずかしい思いをする。抱かれている時、あんなにも高ぶる自分が自分ではないような気になる。

「あんなにいやらしいことしちゃうのに」

「ああ! もう、やめて。恥ずかしすぎて死にそう」

 湯船から持ち上げた両手で顔を覆うと、後ろから楽しげな笑い声が聞こえてきた。

「一緒に暮らすの楽しみだね」

「うん、楽しみ」

「色々二人暮らし用に買い替えないとね」

「あ、そうだ。仕事はずっと忙しいまま?」

「少し時間を作れるようになるよ。いまは仕事なんでも引き受けてるけど。そんなにしなくていいって言われてるくらいだし」

「そっか、そうなんだ。……よかった」

 このまま忙しいままでは寂しさのあまり凍え死んでしまうところだった。それは大げさだけど大げさじゃない。腹の前に組まれた紘希の手をぎゅっと握り、蒼二はそれを引き寄せて頬ずりをする。この手が触れていないだけで、寂しくて夜も眠れない。

「ねぇ、紘希」

「なに?」

「紘希が嫌じゃなかったら、紘希のこと家族に話しておきたいんだけど」

「え?」

「二人で暮らすのもあるし、これから先さ、なにかあった時に知っていたほうが対応できることもあると思うんだ。もちろんすぐにってわけじゃない。その前に自分のことをちゃんと伝えておくから。そのあいだに考えてくれればいいよ」

 これから先の未来を考えた時、隣にいるのはずっと紘希だったらいいなと蒼二は思う。だからずっと傍にいられるようにいざという時の味方を作っておきたい。自分の以外の誰かにも紘希のことを守ってもらえるように。

「いいよ。蒼二さんに任せるよ。会う必要があるのなら挨拶しに行くから」

「ありがとう。紘希、ずっと一緒にいようね」

「うん、ずっと一緒だよ。俺はずっと蒼二さんの傍にいる。もう不安にさせないように頑張るから」

「俺も一緒にいられるように頑張る。紘希、大好きだよ」

 緩やかに響いて心を優しく包む甘音。温かくて柔らかい自分を見つめる甘色の瞳。二人で育ててきた想いは日増しに大きくなって、二人を包み込む。そしてそれはいつしか二人のかけがえのないものに変わった。触れる指先、唇、すべてから愛があふれている。
 これから先も二人で甘やかな恋をしよう。

甘恋-Amakoi-/end
2018/12/23

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