甘い恋をしよう

甘色-Amairo-/02

 長くこの店に出入りはしているが、こういった甘い駆け引きに蒼二は正直弱かった。いつもなら照れくささとむず痒さですぐに誤魔化してしまうところだが、明良の視線はそれを許してくれない。これが経験値の違いなんだなと蒼二は小さく息をついた。「あー、え…

甘色-Amairo-/01

 夏が過ぎて少しずつ空気が変わり始めた頃。長く続いた残暑もようやく終わり、夜は随分と涼しい風が吹くようになった。道行く人の装いもいまは随分と秋めいている。 過ごしやすい日が続くと人は活発になるものなのか。街に夜が訪れれば、人がそこかしこの店…

甘音-Amaoto-/02

「まだこのあいだ三十歳になったばかりだし、おじさんじゃないよ」「三十路になったらやっぱり二十代とはなんか違うよ。紘希と七つも離れてるし」「それこそお兄さんくらいしか離れてない」 少しふて腐れたような表情を浮かべる、蒼二を見つめる紘希の目は、…

甘音-Amaoto-/01

 朝の静けさの中に、目覚まし時計の音が鳴り響いた。 頭に少し響く甲高い電子音。 しばらくベッドヘッドの棚で、けたたましい音をさせていた、その目覚まし時計は、のそりと布団から伸びてきた手に、上部のボタンを叩かれその音を止めた。 しかし時計の音…