雨の調べ

これからもずっと

 人の心を惹きつけて止まない音色。宏武のピアノのあとに弾くのはなかなかのプレッシャーだった。けれど演奏会はその余韻もあってかなり大盛況で幕を下ろした。 終わったあとは昔からのファンだと言う人たちに囲まれる宏武を救い出して、上手く邸宅を出るの…

未来を照らすもの

 あなたはいつか壁にぶつかる。それいつの言葉だっただろう。俺は幼い頃からいつも焦りを抱えていた。 いまでこそ新星だ、新進気鋭のピアニストだと騒がれているが、名前が売れ始めたのは二十歳を過ぎてからだ。 それまでは鳴かず飛ばず。いつも人よりなに…

その行く先

 これから先、宏武にどれだけのものを与えたら、彼の想いに報いることができるだろう。いつだってまっすぐに俺のことを愛してくれる。俺のためにすべてをさらけ出そうとしてくれる。 俺の心にたくさんの愛情を注いでくれたから、それはもう伸びやかに大きく…

溢れるほどの愛おしさ

 首に回された宏武の腕にきつく抱き寄せられる。それと共に繋がりも深くなり、甘く上擦った声が耳に響く。その声に誘われるままに腰を動かせば、そこは少しきついくらいに俺のものを締めつけてくる。それだけで吐き出してしまいそうになるけれど、まだこの身…

初めての夜

 ホテルに帰り着くと部屋に入るなり宏武を捕まえて、貪るような口づけをした。息をつく間も与えないくらい声を飲み込んで、何度も何度も深く唇を合わせる。そして両手で頬を撫で、結ばれた宏武の髪を解いて掬う。さらさらとこぼれる漆黒の髪はほのかな明かり…

記憶の破片

 テーラーの工房は自宅も兼ねているらしく、田舎町に少し不釣り合いなこじゃれた印象があった。家族は全員職人のようで、ここに来たら天辺からつま先まで一式が揃うとのことだ。その腕はもちろん一流で、遠くから人が集まってくるのも頷ける。 フランツと俺…

穏やかな時間

 その日はいつもよりすっきりと目が覚めた。少しばかり気持ちが先走るようなそんな感覚があったけれど、気分はよかった。寝起きで動きの鈍いまぶたを瞬かせて、目の前を見れば白いうなじが見える。 いつもなら赤い跡が散っているがいまは真っ白なままだ。誘…

森のカントリーハウス

 森の木立の中にある邸宅は石造りのカントリーハウス。夕日に照らされたそこは絵本の挿絵のような柔らかな雰囲気がある。 車を降りると広い敷地に見合った大きな邸宅からは、ピアノやヴァイオリン、チェロやハープの音色が聞こえていた。 その音を聴きなが…

予定外の出来事

 ドイツの三大都市ミュンヘン――音楽都市とも言われてオペラやコンサートが楽しめることでも有名だ。七月のいまはシーズンオフだが、音楽祭や野外コンサートなどは各所で催されている。 けれどそこへ赴いて音楽漬けにならなくとも、ここには足を伸ばせばゆ…

すべてが欲しい

 普段は真面目で大人しそうな顔をしているのに、性に対して奔放でいつも驚かされる。初めて抱いた時も宏武は俺に足を開いていやらしく腰を振ってきた。その姿に正直言えば自分のコントロールが効かなくなったくらいだ。 宏武にこんな一面があったのかと、興…

心にある面影

 なぜだかわからないけれどいつも宏武は自分に自信がなさげだ。思っているよりずっと素敵だと何度も伝えても曖昧に笑う。 もしかしたらそれは昔、大切だった人を不幸にしてしまったと言っていたことに関係するのかもしれない。もう吹っ切れたと言っていたけ…

煌めく音

 駅前から商店街を抜けて、コンビニ前を通り過ぎると公園がある。その小さな公園は天気のいい日は子供の声が賑やかに聞こえる。 けれどいまの季節は雨続きなので、夕刻の公園はしとしと降る雨と共に静けさをまとっていた。 特別変わったところもない公園だ…