微熱

始まるこれからの時間07

 少し時間をおいて、冷静になってから部屋を出た。隣にある穂村の部屋を覗いたら、ベッドで眠っているのがわかった。傍に近寄っても起きる様子はなくて、確かめるように頬に触れたら温かくてほっとする。 漠然とした不安はこの先、別れることになるのではな…

始まるこれからの時間06

 ゆっくりと昼食をとって新居へ移動すると、いい時間になった。約束の時間まであと少し、持ってきた掃除用具で軽く部屋の中を拭き掃除して、部屋の空気を入れ換えるために窓を開ける。 天気のいい今日は少し暑いくらいだけれど、涼やかな風が吹いていた。 …

始まるこれからの時間05

 新しい住まいはいままでのアパートとは違う路線になる。けれど学校も、穂村の勤めるデザイン事務所も通勤三十分ほどだ。実家通いだった彼はかなり通勤時間が短縮される。 早い時間に出社するために、毎朝早起きしていたようなので、おそらく二十分くらいは…

始まるこれからの時間04

 自分たちの関係を、誰かに言って回りたいわけではない。誰かに知って欲しいのかと言えば、それも否だ。周りに詮索されたくないし、興味本位に近づいても欲しくない。 叶うならごく平凡な幸せの中で、穂村と一緒に静かに生きていければいい、そのくらいの感…

始まるこれからの時間03

 審査が通ったと連絡が来たのは翌日のことだ。思っていた以上に早い回答に驚いた。けれど前半でかなり時間をロスしていたので、このスピーディーさはありがたい。 契約を済ませたのは五月まで残り二週間と言った状況だった。あのまま部屋が見つからなかった…

始まるこれからの時間02

 引っ越しをしようかという話が持ち上がったのは去年の暮れ。元より穂村は一年くらいしたら、一緒に暮らしたいと言っていたのだが、現実的になったのがその頃だった。 仕事にも慣れて、体調も良好だと病院の担当医にお墨付きをいただいたのがきっかけだ。と…

始まるこれからの時間01

 いまはいつも隣にある存在が、当たり前だと思っている。ずっと変わらない笑顔を向けてくれる、その優しさがひどく心に染みてくるほどに。 それでもふとこの先に続く道は、どこまで一本であり続けられるのだろうと、そんなことを考えて胸が少しばかり軋む。…

君の隣

 吹き抜ける風に少し冷たさを感じるようになってきた。季節は意識しなくともどんどんと移り変わっていく。あともう少しすれば街路樹の葉も色を変え始めるのだろう。 いままで街並みなど気にもとめずに過ぎていたのに、近頃はそんなことを思って歩くことが増…

二つの熱

 優しく触れる手が少し熱を帯びている。存在を確かめるみたいに髪の先から頬、首筋へと流れて、身体を辿る手が胸元に触れると彼は少し嬉しそうな笑みを浮かべた。 その笑みを見ていると早まる鼓動が伝わってしまうんじゃないかって少し気恥ずかしくなる。け…

二つの熱01

 トクトクと胸を高鳴らせて緩やかに心が動く。ふとした仕草、先を見据えるような大人びた視線、振り返る無邪気で優しい笑み。少し情けない顔やふてくされた顔、どんな表情も愛おしく思える。ただ傍にいるだけなのに、胸の奥が温かくて幸せだと感じた。 あん…

伝わる熱04

 静かな室内では時計の秒針の音がカチカチとかすかに聞こえてくる。放課後の喧騒が時折外から聞こえはするが、時間とともにその声も聞こえなくなっていく。 黙々と仕事をすればするほどに時間は刻刻と過ぎて行き、気がついた頃には一日の終わりを迎える。 …

伝わる熱03

 余計なことを口走ってしまいそうでとっさに口を引き結んだ。そして真っ直ぐと向けられる視線から逃れるようにゆるりと目を伏せる。冷静になると火照った頬が冷めて今度は冷や汗をかいた。 普段崩すことのない表情を思い起こしてなるべく平静を装う。けれど…