はじまりの恋

バースデー04

 心許ない感覚に思わず腕を伸ばして首筋に抱きついたら、背中をあやすように叩かれた。「少し横になっていたほうがいいですよ。もう目が回ってるでしょう」 僕を抱き上げた優哉はまっすぐに寝室へと足を向ける。まだ眠るつもりはないと抵抗したいけれど、頭…

バースデー03

 僕に危機管理能力がないと言うよりも、周りが予想外の反応を示すのではないかと思う。僕みたいな平凡な人間を捕まえて色気があるだの、人を寄せつけるだの言われてもピンと来ない。変な色眼鏡で人を見ているのではないだろうか。 どう考えても人を惹きつけ…

バースデー02

 無事に出勤をして昼休みも過ぎた午後。窓からは梅雨の曇り空が広がって見えた。雨が降りそうで降らないすっきりとしない天気だが、今日の楽しみを思えば少しは気分が晴れる。しかしそれでも頭を悩ませるものはあった。「どうしようかな」 学校は今月末から…

バースデー01

 誕生日を祝うのは生まれてきてくれたことに感謝するということだ。その人が生まれたことを喜ぶべき日だと思う。だからその日を祝えるのとても幸せなことだろう。 そんなことを考えながら僕は、手に持ったボウルの中身を細心の注意を払いながらかき混ぜてい…

約束07

 俺はいつも約束を違えてばかりだけど、もう二度と彼を一人にしないと誓いたい。離れたあの時間は無意味なものではなかったが、それでも彼にとっては長い時間だったろうと思う。 だから俺はこれから先、彼を残してどこにも行かない。目の前にある笑顔が続く…

約束06

 いつも彼は隣で優しく笑う。その笑みに安心してしまうけど、その内側にある感情を時々見落としていまいそうにもなる。だから時折こぼれる小さな本音を聞くたびにはっとさせられた。 彼は自分よりもずっと大人だから、感情のままに我がままを言ってくれるこ…

約束05

 両手にビニール袋を提げてこちらを見ているその人物は、高校時代クラスメイトだった神楽坂だ。彼は驚いた顔をしながらこちらに近づいてくる。そして傍にやってくると俺たちの顔をマジマジと見ながら少しぽかんとした。「神楽坂こそ、なんでここにいるんだ?…

約束04

 そこに降り立ったのは随分と久しぶりだった。改札口から見える景色は以前と大きく変わっているところはなく、なんとなく時間が急に巻き戻されたような気分になる。何年も毎日ずっと通り過ぎていた場所を見渡しながら、彼の背中を追って改札を抜けた。「ここ…

約束03

 四人で和やかに食事をしたあと、浩介たちは会社に戻ると言うので駅前まで見送りそこで別れた。時計を見れば時刻は十三時を回っている。さてどうしようかと考えて、今日の予定を思い出す。 店で使っている珈琲豆。それを扱っているところに、新しい商品が増…

約束02

 もっと周りを見渡せと、あの人が言った言葉の意味がいまならよくわかる。俺はこの世界に一人きりで立っているわけではないのだ。いまも昔も俺は人に恵まれている。 そして人間というものは日々の中で少しずつ成長しているものなのか。あんなに苦手だった人…

約束01

 四月の始め――その日は本当なら午前中に予定を済ませて、夜までゆっくりと家で過ごすつもりだった。けれど朝一番にかかってきた電話でその予定は大きく覆されてしまう。人の休みをしっかりと見計らっているその電話の主に、ありったけの恨み言を言ったがそ…

贈り物

 キッチンのオーブンをのぞけば、焼き上がって冷めたクッキーがそのままになっている。取り出してみると焼き色はちょうどいいように見えた。一口かじってみるが味も悪くない。「よし、いいか」 焼き上がったクッキーの中で綺麗な形のものだけを拾い集めてい…