触れて触って抱きしめて

独りぼっちの憂鬱

 突然図書館に現れた雪宮は、あれからたびたび来館するようになった。閲覧室で二人、仲良く読書をしているのをよく見かける。 賑やかな印象があったので、おしゃべりせずに黙って本を読んでいるのは、かなり意外性があった。 しかしさきほど閲覧室を覗いた…

彼の想い人

 サボテンのユキ――もしかしてくだんの人だろうか。名前にユキがつく人が、周りにそれほどいるとは思えない。だが中原の想い人が、同性だったのは意外だ。 目鼻立ちのはっきりした、可愛らしい顔立ちをしているけれど、声も体格も男性のもので、ボーイッシ…

急接近

 きっとあれは彼だけの秘密だったはずだ。大事に大事に、水やりをして育てているサボテン。 一度だけ根腐れを起こしそうになって、とても心配していたことがあった。その時は閲覧室で熱心に、植物の本を読んでいたの覚えている。「聞こえる声って、どのくら…

純粋な優しさ

 思いがけない場所で遭遇して、言葉を交わしてから、中原は図書館に訪れると必ず、天音に挨拶をしてくれるようになった。 なにか特別なことを話すわけではないけれど、いつしか彼は、天音の日常の中に溶け込み始めていた。「あれ? 遠藤くん、今日は眼鏡だ…

思いがけない出会い

「ねぇ、遠藤くん。今日はシフト十八時まで? これから時間ある?」 配架が終わり、事務所で作業していると、同僚の道江に声をかけられ、天音はキーボードを叩く手を止めた。「いつものですか?」「そうそう」「いいですよ。いま片付けます」 今日中に新着…

まっすぐな想い

 ――好き、好き、好きだよ ――お願い振り向いて 純粋で飾り気のない愛の言葉。 すっと心に染み込んできた声は、甘酸っぱい恋の香りがしそうな、ひどく心地の良い、優しい声音をしていた。こんなにも想いがこもった声を聞いたら、どんな人でも振り向いて…