君がかけた恋の魔法

君が教えてくれたもの04

 人が一人いなくなっただけで部屋の空気が変わる。この部屋に来た時にはなかった緊張感が満ちて、胸をざわめかせる。小さな呼吸さえも大きく感じて、息を潜めてしまった。「広志」「な、なに?」 閉じられたふすまを見つめたまま僕はわざと間を作った。けれ…

君が教えてくれたもの03

 改めて自分の中にある感情と向き合ったら、その中にある無意識の悪意に気がついた。一緒にいると楽しいのは彼が僕に害を与えないからだ。 最初の頃のように僕の気持ちを無視した行為をしてこないから、自分にとって無害だから怜治くんを好きだと思えるんだ…

君が教えてくれたもの02

 歩いていると母屋と離れを繋ぐ渡り廊下に差し掛かった。そこからは庭が見える。表で見た庭とは違うからこれは内庭というやつだろう。 庭に植えられた木が秋色の葉をつけていて、すごく綺麗だ。そして玉砂利が敷かれた地面には優美な波模様が描かれている。…

君が教えてくれたもの01

 思いがけず同じ趣味を持っていた怜治くんと僕。話をすればするほど好きなものが被っていたりして、以前よりずっと会話が増えた。 あの作者はどうだ、あの登場人物はこうだろう。いままで他の友達とはできなかった話を、存分にできることが楽しくて、怜治く…

近づく距離02

 悠太くんのこういうとこずるい。あんまりにも無邪気だから笑った顔に誤魔化されそうになる。顔のいい人ってそれだけで得だと思う。それに人当たりの良さがプラスされると、さらに三割増しくらいだ。「部活の先輩とか役員の先輩とか、物々交換で」「僕の知ら…

近づく距離01

 少しずつ傍にいるのが当たり前になっていく。隣にいることがごく自然になると、色んなものが見えてくる。例えば、結構な甘い物好き。いつも飴玉を舐めていたり、食事のあとに一口チョコを食べたりする。 考えごとをする時はいつもピアスをいじる癖があって…

好きの大きさ

 どうして僕はこんなところにいるんだろう。晴れ渡る空と休日の賑やかな遊園地。行き交う人たちはみんな笑顔で楽しそうだ。 隣には最近すっかり見慣れた怜治くん。その前をいちゃいちゃと歩くのは怜治くんの友達の悠太くんと彼女の佐和子ちゃん。どうしてこ…

揺れる想い

 最近、少しなにかおかしい――やけに気持ちがそわそわしているというか、落ち着かない感じがしてあまり物事が手につかないことが増えた。でもその理由が見つからなくて、余計にモヤモヤとした気分になる。「一ノ瀬……おい、一ノ瀬?」「え? あ、ごめん。…

君が見つけたもの

 お友達から始めましょう、的なやり取りから僕と怜治くんの関係は、相変わらずなにも変わりはない。 放課後のお迎えも、そして無言の帰り道も相変わらずで、なんの進展もないまま時間ばかり過ぎていっている。いや、僕としては進展などあっては困るのだけれ…

君との出会い

 最近なぜか妙な人に好かれてしまったようで、突然毎日が波瀾万丈になってしまった。 なんでそうなったのかいまだ謎なのだけれど、今日も彼は僕を迎えに教室までやって来た。「広志」 しかもなぜに名前呼びの呼び捨て? 彼は一個下の一年生だし、僕と彼の…