紺野さんと僕

幸せの数よりあふれる笑顔03

 煌びやかなクリスマスツリーと、定番のクリスマスソング。青色のイルミネーションの光が、辺り一面を埋め尽くしている。 腕の中で笑ったミハネは、なんだか恋人同士みたいだね。なんて、のんきに顔をほころばせた。「映画の中でも、夜景をバックに抱き合う…

幸せの数よりあふれる笑顔02

 高階祐樹――その名前を聞いて、ピンとくる人はまずいないだろう。 顔を見知っていた商店街の人たちでも、彼の本当の名前までは知らない。それを身近な人間で知っているのは、祖母と友人の園田聡くらいだ。 祐樹、彼は俺の恩師の息子。 それ以上の関係は…

幸せの数よりあふれる笑顔01

 クリスマスなんてものは、いままでほとんど意識したことがない。 夜になり、祖母がご馳走を作っていてくれたのを見て、そこでようやく気づく。毎年そんな感じだ。 それなのに今年に限っては、雑踏の中にいた。イルミネーションで飾られた、街路樹をぼんや…

澄み渡る青の世界04

 二人の驚いた顔に、僕のほうがもっと驚いてしまう。確かにいきなり、初めて来た場所を知っているなんて言ったら、驚かれるだろうが、ちょっと反応が大げさだ。 だけどもしかしたら、僕がなにか昔のことを思い出したと、勘違いしているのかもしれない。 け…

澄み渡る青の世界03

 鈴凪荘に転がり込んだのは、年がもうすぐで明ける、というような頃だった。それから僕は、一度も小さなあの町を出たことがなかった。 いままできっと何度も乗っただろう電車も、そこから見える景色も、珍しくて少しはしゃいでしまう。 いつも以上にお喋り…

澄み渡る青の世界02

 二階の掃除を終わらせて、一階に下りた頃には、紺野さんはどこかへ出掛けていた。いつもなら家で、ぼーっとしていることがほとんどなのに、珍しいこともあるものだ。 仕事だろうか。 普段は園田さんがやってくるけれど、時折出掛けていないことがある。そ…

澄み渡る青の世界01

 三月の中頃――その日はいつもと、変わらない始まりだった。まだこの時も仕事を始めていなかったので、僕の仕事は目下、美代子さんのお手伝い。 アパートの周りを掃き掃除したり、空き部屋が痛まないように、軽く掃除したり、ご飯の支度もした。 この場所…

藍色は愛の色

 それは僕が鈴凪荘に転がり込んで、しばらくした頃の初めてのイベントだった。 町の商店街でも、あちこちでそのイベント企画を、目にしたのを覚えている。 赤やピンクの色合いにハートマーク。ポップで可愛いものが目についた。 キョロキョロしていたら、…

新しい黒猫いりませんか?08

 胸元に寄せて、両手で抱きかかえたまま、黙ってこちらを見つめてくる寡黙な人に歩み寄る。 そして目の前にまで行くと、僕は窺うように見上げてから、手の中でジタバタするその子を差し向けた。 ちっちゃな声でみっと、鳴く子猫に視線を落とした彼は、なに…

新しい黒猫いりませんか?07

 河原から土手の道に出る、申し訳程度の階段は、僕が通ってきた道の反対側にあった。 手前ばかりを気にしていて、向かい側を見落としていたわけだ。 水没した携帯電話を拾い、そこからなんとか地上に脱出して、雨の中を二人で歩いて帰った。 お店に着くと…

新しい黒猫いりませんか?06

 学校を背に右手へ、道を二本過ぎたら左へ、言われたことを反芻しながら道を辿り辺りを見回す。 けれどそこに昭太郎くんの姿はない。まだ近くにいるかもしれないと、電話を鳴らしてみれば、近くで甲高い電子音が聞こえる。 隈なく見渡しながら進むと、道の…

新しい黒猫いりませんか?05

 実に楽しそうに笑う、園田さんはしばらくこらえ切れない、と言うように笑い続けた。 しかし馬鹿にされたとは感じていない。あまりにも僕が明け透け過ぎて、それがおかしかったのだろう。 ひとしきり笑うとごめんね、と謝ってから返事を待つ僕の頭を、優し…