紺野さんと僕

紺野さんと僕07

 背伸びをして、目盛りを下ろしたのはいいが、これでは肝心の数字が見えない。仕方なしにちらりと、近くにいる紺野さんに目配せをしてみた。 しかし一瞬あった視線をふいとそらされる。「紺野さん、無視しないでこれ見てよ」 めげずに身振り手振りで頭上を…

紺野さんと僕06

 瓶の口に被せられたセロハンを取り、小さな摘みを引っ張って紙蓋を開ける。そして瓶を傾ければ、喉の奥へ甘い液体が滑り落ちていく。「んー、風呂上がりはやっぱこれだね」「ミハネくん、あんたホントによく腹壊さないな」 続けざまに瓶を二本空にした僕に…

紺野さんと僕05

 何から何まで世話を焼き、部屋を勝手に出入り出来てしまう、勝手知ったる間柄。けれど紺野さんが僕を意識してくれない限り、甘い関係になることは高い確率でない。 それは風呂に一緒に入ってる時点で一目瞭然だ。 多分きっと紺野さんは、僕のことを本当に…

紺野さんと僕04

 どんなに愛想がなくても、感情こもってるのかが曖昧でも、紺野さんがそう言ってくれる間は、まだ僕の居場所はなくならない。 だからそれを聞くだけで僕は満足なのだ。「湯当たりするからそろそろ上がろう。紺野さんもう二日以上なにも食べてないんだから倒…

紺野さんと僕03

 美人で男らしくてすごく魅力的な紺野さんは、ずぼらで面倒臭がりで、どうしようもないくらい、駄目な人だったりする。 しかしそんな彼でも、僕にとってはどうしようもなく大好きな人。 半年ほど前に、この鈴凪荘へ僕が転がり込んでからずっと、それをアピ…

紺野さんと僕02

 力任せに布団を奪い取ると、小さく自分を抱きかかえる、紺野さんの背中が現れる。けれど長い手足は丸まり切らず、若干身体の端からはみ出していた。「寒い」「……寒いって、こんだけ天気良くて暖かいのに。ほら、紺野さんも虫干ししてあげる」 ベランダに…

紺野さんと僕01

 鈴凪荘――築六十年。 木造二階建てのレトロな雰囲気のアパート。周りは緑に囲まれ、喧騒もなく、時折小鳥のさえずりが聞こえる静かな環境――なんて格好良く言うと聞こえは良いが、ここはただのボロアパートで、もはや廃屋並。 現に六世帯入るこのアパー…