小話名刺メーカー

君の好きな人

 はじめての恋に臆病になっているあの子は些細な失敗をするたびに涙をこぼす。嫌われたくはないと必死でしがみつく。 そんなに君に想われている人は幸せ者だ。それが自分だったらいいのにって思ってしまう。「おい、靖、練習台に付き合えよ」「うん、いいよ…

夢のような現実

 朝、目が覚めたら顔にもふもふとした毛の感触がした。ぼんやりとした頭で昨日のことを振り返ってみるが、犬猫を拾ってきた記憶はない。 昨夜拾ってきたのは好みにドストライクな長身イケメンのはずだ。飛び交う疑問符を頭に浮かべて恐る恐る目を開いたら、…

片道の約束

朝から賑やかな足音。部屋に飛び込んでくる男は、日課のように人の上に着地する。「朝だよー」「うるせぇ、退け」「①ほっぺ②おでこ③唇、どこにする?」「却下だ」「お礼はキスでいいよって言ったでしょ!」酔っ払いの戯言を信じて毎朝起こしに来る。キスな…

愛しの女神

頭の中にファンファーレが鳴り響く。花吹雪が舞い、こぼれ落ちる色とりどりの模様が石畳に映し出される。ああ、神よ――などと両手を胸の前で組んで神々しいその姿を見上げた。美しいかんばせ、その優しげな微笑み。いま愛を請うような気持ちになった。そうこ…

秘め事

君の笑顔を見るだけで胸の音が速くなる。笑い声を聞くだけでまるで光の粉を振るったみたいに世界が輝く。やんわりと細めた瞳、ゆるりと持ち上がった弧を描く淡い色した唇。すべてを腕の中に閉じ込めたくなる。どうしたって叶わないと思うけれど、胸に宿る想い…

ある日の空

空を見上げる。青空が見えていたそこはいまは重苦しい雲に覆われていた。ぽつんと頬に落ちてきたものに目を瞬かせ、アスファルトに増えた小さな点を見つめる。次第にしっとり濡れてくる髪が緩く波打つ。足早になっていく人波をぼんやりと目に映しながら、もう…

恋獄心中

院生×教授 もういっそのこと、息の根を止めて。好きでいることができないなら生きる意味が見つからない。嫌いじゃないよと言いながら、どんどんと離れていくあなたに、もう心は引き裂かれた気分。 どうして傍にいてくれないの? どうして見てくれないの?…

妖しき紅玉の瞳

真面目な警官×高級宿の男娼 不敵な笑みを浮かべる目の前の美貌に、飲み込まれそうになって身体が逃げを打つ。けれどそれは見透かされているのか、彼はやんわりと猫のような瞳を細めて俺を見つめた。 胸が早鐘を打つ。焦りを悟られまいとするが、相手のほう…

夏と太陽と臆病な僕

同級生/片想い/いじめられっ子×人気者 ふと君の笑い声が響いた。熱い日差しの中で君は眩しい笑顔を浮かべる。暑い熱い――と零しながらも、いつもここに来て僕の隣に座る君はひどくお人好しだ。 今日はパンの争奪戦に勝利したようで昼ご飯は潤沢だ。その…