My Dear Bear~はじめての恋をしました

42.それはまるで台風のような

 過ぎたことなのにまだ身体がぞわぞわとする。同性の相手から向けられるあからさまな性的感情。あの瞬間は怖くて怖くて声も出せなかったが、いまはそれを上回る気持ち悪さがあった。 電車で痴漢に遭って声が出せない女の子の気持ちを身をもって体感してしま…

41.初めて感じる恐怖感

 ねっとりと絡むような視線はいつまで経っても離れていかず、光喜はとっさに身体に力を込めた。しかし逃げ出そうとした光喜よりも先に晴が動き出す。カウンターの端に置かれた小さな黒いカゴを手に取ると、鼻歌を歌いながらそれを振り回した。そして踏ん張ろ…

40.怪しさしかないそんな場所

 午前中に集まって、撮影が終わった頃にはもう夕方を過ぎていた。しかし飲みに行こうと誘ってくる女性陣やスタッフに特大の愛想笑いを貼り付けて、晴は光喜を捕まえたままスタジオを出た。電車に乗ってからもその手は離されず、逃げようとしようものならギン…

39.二つの思いがけない反応

 生き方も不器用で、恋をするのも下手くそで、いいところなんてさっぱり見つからない。あの人に見透かされそうで怖いと思うのは、そんな自分を知られて離れて行ってしまうことが怖いからだ。好きだから、好きだからこそ自分の内側を光喜は見られたくない。 …

38.自分が立つべき場所は

 時間ギリギリにスタジオに入るとわらわらと光喜の周りに人が集まり、いつもの作り笑いになった。出端からこの調子では一日気が重くなりそうだとため息がこぼれる。晴はと言えば、そちらもいつもの可愛い子ぶりっこな仮面を被りスタッフにちやほやされていた…

37.久しぶりの騒がしさ

 これからのことや小津のことを考えながらその日は眠りについて、翌日は撮り溜まっていた番組を朝から晩まで見て、次の日の予定など忘れて夜更かしをした。 普段から光喜はそれほど寝起きは悪くない。けれど昨晩寝たのは三時頃で、もうしばらく惰眠を貪って…

36.それは思い出の一つに変わる

 じわじわと火照る頬から気をそらすように麺を啜りスープをグビグビと飲み干す。それでもいままで感じてきた小津のぬくもりを思い出して、光喜はぶんぶんと首を振る。隣の勝利にはひどく訝しげな顔をされたが、食事が済んだのを見計らい慌ただしく立ち上がっ…

35.もしもの想像は恥ずかしい

 みんな口を揃えて光喜には華やかな世界がよく似合うと言う。純粋に応援してくれるその気持ちは嬉しい。けれどそっとしておいてもらえたらもっと嬉しいのに、とも思う。根っこが社交的でないから光喜にとってそれはかなりのプレッシャーだ。「でもまあ、お前…

34.元通りになった二人の距離

 突然始まったあの苦くて辛い恋はもう終わりを迎えた。いまは勝利の顔を見ていても切なくなったり、胸が痛くなったりしない。けれど新しく始まった恋もだいぶ切なくて苦しい。人を好きになることは幸せなことだけではないのだということを光喜は初めて知った…