しあわせのカタチ

コトノハ/01

 初めてあの人が口にした言葉は、ほとんど聞こえないくらいの、小さな小さな告白だった。 正直言えば聞こえなかった、と言うのが本音だが。それでも心に、伝わってくるものがあった。次がなくとも許せてしまうくらい。 そう思っていたのに、なんだか最近の…

角砂糖

 朝、目を覚ましてリビングへ行くと、珈琲の香りが部屋に広がっている。そしてフライパンで油が跳ねる音がして、ベーコンの焦げたいい匂いが漂ってくる。それはほぼ毎日欠かすことがない。ゆっくりと視線をキッチンへ流してみれば、やたらとまっすぐとした広…

二人の距離

※一緒にいるようになって一年くらい―――――― 冷たい冷気を漂わせるアイスが並んだショーケースの前で、じっと立ち止まってもう五分くらい経った。それでも彼はまだ悩むようにじっと見つめている。「先輩、なに悩んでるんですか?」「新作アイス、抹茶と…

レンアイモヨウ07

 お互い真っ正直なんだろうなと思うと、ほんの少し羨ましくもある。自分はひねくれて、素直に心の内側にある気持ちさえ言葉にできない。 それを言葉というカタチにしてしまったら、なにかがガラガラと崩れ落ちていきそうで、隣にある手さえ握れない。 この…

レンアイモヨウ06

 なにか心の隅に残るような、出来事とはなんだろうかと考えてみるが、なにも浮かばなくて次第に考えるのも疲れてくる。 正直言えばもう考えるのもやめたい。いっそこの手に繋いだものを手放したら、楽になれるだろうか、なんてさらにネガティブな考えまで浮…

レンアイモヨウ05

 あちらのほうがやはり早かったようで、駅に着く前にメッセージが届いていた。 また電車に乗るのだろうから、改札を出なくてもいいのに、律儀に外で待っているようだ。 中にいてもらったほうが、説明が省かれて楽だったとも思うが、仕方ない。 駅前の広間…

レンアイモヨウ04

 残りの時間はなんとか仕事をこなして、一日のタスクは完了させた。文句ばかり言う女子たちは、積み上がったファイルを半分ほど片付け、逃げるように帰っていった。 少しだけ仕事が減った穂村と言えば、ほぼほぼ書類が片付いている。 足元にあったファイル…

レンアイモヨウ03

 本当に好きになった人は、あなた一人だけだ。そんなことをウザいくらいの絡み酒で言っていた。 それがいつだったかはもう覚えていないけれど、自分から好きになったのは俺だけだと、言われて少し気分が良かった。 誰の手垢もついていない、まっさらな感情…

レンアイモヨウ02

 いま自分の中にある感情がなにか、それは自覚しているつもりだ。しかしその感情は、それほど珍しいものではない。 いままでだって相手に好意を持っていたし、付き合っていればこれは当たり前の感情だろう。 それでもいままでとは、どこか違うような気はし…

レンアイモヨウ01

 幼い頃は人を好きになることに優劣はなく、誰を好きだと言っても周りは、子供の戯言くらいの反応だった。 そのまま成長をして思春期になった頃も、若気の至り、好奇心によるもの、程度の印象しかなかったのか。 自分の性癖を自覚したのは少し遅かった。 …