はじまりの恋~Side Story

蜜月

 茜色の空が広がる夕刻。佐樹はふと空を仰いだ。 吹き抜ける風が心地よくて、自然と目を閉じてしまう。さらさらと髪が風に揺らされ、ひどく気分が良い、そう思うと自然と口元には笑みが浮かんだ。「佐樹さん、お待たせ」「あ、うん」 ぼんやり空を眺めてい…

変わらぬもの02

 毎日うるさいうるさいと愚痴を零しているが、今日は誰もいない静けさに弥彦はほんの少し寂しさを感じていた。「慣れるとそんなもんなんだろうな。うちはいつも人がいないから気にならないけどな」「寂しいこと言うなぁ。なんならうちに帰ってくる? でもき…

変わらぬもの01

 駅前の通りから少し外れたコンビニ。近所の人たちしか使わないためか人入りは少なく、レジカウンターの内側に立つバイトたちはお喋りに勤しんでいる。 街灯だけがぼんやり光る薄暗い道からは、そんな姿がガラス越しに良く見えた。弥彦はふと駅前のスーパー…

Pure Days02

 店の中に入ると好奇心旺盛な子犬がこちらに向かって尻尾を振っていたり、マイペースにお腹をさらして寝ている姿が窺える。スタッフの女性は先ほどまで彼が見ていた子猫をケージから抱き上げた。「マンションって、確かペット可ですよね? どうせなら飼えば…

Pure Days01

※邂逅以降のお話―――――――― 人の少ない休日の朝。止まらないあくびを噛みしめながら、車内がガランとした電車に揺られる。 現在、時計の針は八時を少し過ぎた時刻を示す。いつもの休みなら間違いなくまだベッドの中で惰眠をむさぼっている時間だが、…

陰日向03

 一番奥まで来ると、そこは若干本棚に明かりを遮られて薄暗い。戸惑いながら藤堂を振り返るが、表情を見る前に腕を引かれてしまい、近くの棚に背中を押しつけられた。「な、なに……」 思わず大きな声を出しかけるが、とっさに藤堂の手で口を塞がれてしまう…

陰日向02

 陽が傾き、オレンジ色の陽射しが降り注ぐ室内で、ページを捲る音やシャープペンが紙の上を滑る微かな音が響く。 しかし目の前で教科書に視線を落としている二人へ視線を向けながら、僕は自分の後ろで感じる気配が気になって仕方がなかった。「先生、これは…

陰日向01

※日常/引力以降のお話―――――――― バラバラと生徒たちが教室や校舎から吐き出されて、にわかに辺りは人の気配を感じさせた。 そんな放課後の慌ただしさを横目にしながら、のんびりと渡り廊下を歩いていた僕は、ふいにかけられた声に呼び止められる。…

冬の日02

 初めはまったく気づく様子がなかったが、何度か呼んでいるうちにさすがに自分が呼ばれていることに気づいたのか、彼は目を丸くして弥彦を見た。「三島?」 ほんの少し人波から外れて立っていた、その人の元へ弥彦が歩を進めると、あずみは待ちきれないよう…

冬の日01

※告白前の正月―――――― 参道を埋め尽くす人の群れ。ぎゅうぎゅうと押し合いながら歩くその流れに巻き込まれれば、自然と身体は押し流されていく。しかしその流れを遠巻きに眺める少年少女たちがいた。 黒髪を結い上げ鮮やかな赤色の綺麗な着物を身にま…