しばらくして寝室を覗くと、ベッドで希壱は寝転がりながら、スマートフォンを見ていた。おそらく色々と予習復習でもしていたのだろう。
そっと近づいて見ると、一真の気配に気づき、希壱はハッと顔を上げた。
「忍び足で来ないで!」
「なに見てんのかなぁと思ってな」
「わかってるくせに、意地悪いなぁ」
手にしていたスマートフォンをベッドの宮棚に置き、希壱は充電コードに繋ぐ。そんな様子を、一真はベッドの端に腰掛けながら見守った。
「心の準備、できたか?」
「うん。一真さんは?」
「体の準備はできたぞ。希壱がその気にさせてくれるんだよな?」
「なんかハードルが上がった」
一真の言葉に眉尻を下げた希壱だが、顔を見合わせると二人して笑ってしまった。
「一真さん、こっち来て」
「ん、仕方ねぇな」
ベッドの上に座った希壱が両手を広げてくる。不承不承を装い、端からそちらへ移動して、一真は希壱の膝に乗り上がった。
「今日はやけにバクバクしてんな」
「うん。さすがにね」
Tシャツの上から胸元に手を当てると、希壱の心臓はやけに駆け足だ。普段、一真にのしかかってくる時でさえ、ここまで速くない。よほど緊張しているのだろう。
「希壱、キス」
「可愛い。一真さん、大好き」
わざと一真がねだってやれば、するりと腰に両腕が回され、抱き寄せられた。笑顔のまま近づいてくる希壱に、苦笑を滲ませながらも、一真は黙ってまぶたを閉じる。
やんわりと触れるぬくもりは随分と慣れた。希壱がどんな風に口づけるか。興奮が混じり始めるとどうするか。
些細な癖もわかるくらい、キスをしているというのに、これが付き合い始め、最初の口づけだ。いささかおかしな気分になる。
「や、やばい。めちゃくちゃ心臓が――破裂しそう」
「しないしない」
たっぷりと一真に口づけておいて、随分とひ弱な発言をする。感情と動作がちぐはぐになっている、希壱のTシャツの裾から、一真は手を忍ばせた。
確かに先ほどより、一真の手のひらに伝わる鼓動が忙しない。それでも希壱の意識が性欲に振り切れば、気にならなくなるだろう。
緊張した希壱の体を、手のひらでゆっくりなだめるように撫でていたら、急にベッドへ押し倒され、一真は目を丸くする。
「希壱?」
「駄目、ほんと駄目。俺に嫌なことされたら殴って」
「野獣め」
「一真さん限定」
どうやら希壱の興奮がMAXになってしまったようだ。
押し倒した一真の体をまたぎ、希壱は荒々しく口づけてくる。少々強引に口の中へ侵入してきて、舌や粘膜を貪りだす。
「はっ、がっつきすぎ」
「無理だから、殴るか蹴るかして」
「んっぅ」
唾液が溢れるほど舌を絡められ、首筋や脇腹をまさぐられる。
このくらいは散々してきたのに、今日の希壱は瞳がギラギラしてすっかり獣だ。
希壱の唇が下へと滑り、首を舐めたかと思えば、鎖骨を甘噛みしてくる。いまにも食われそうな感覚に、一真は身震いした。
「すげぇ、もうガチガチだろ」
「いま痛いくらいだから触らないでね。一真さんを先に堪能したいから」
視線を下へ向けると、スウェットを押し上げる希壱の昂ぶりが目に入る。じっと見つめていたら、希壱は一真の太ももにそれを擦りつけてきた。
「一真さん、すごい物欲しそうな顔」
「自分で暴発させんなよ」
「最初はいつものしようか」
腹を撫でていた手が、一真のスウェットのウエスト部分を引っ張り、侵入してくる。
希壱の興奮に煽られ、反応していた欲望を彼の手で優しく、だけれど愛撫のようにねっとりと撫でられた。
「感じてる一真さん、色っぽいし、可愛い」
「語彙力」
「求めないで」
一真の昂ぶりを扱きながら、希壱もスウェットや下着をずらし、自身のモノを目の前へさらけ出してきた。
体の大きさに比例するのか、希壱の息子は大層立派だ。手でしている分はいいけれど、挿れるのはなかなか大変そうに思える。
「先に言っておくね。俺、すぐイキそう」
「……ふっ、別にいい」
思わぬ宣言に、こらえる予定の笑いがかすかに声に出た。しかし希壱もいまばかりは、照れくさそうにするだけだ。
「んっ、はあ……無理、しなくていいぞ」
「だって一真さんの良さそうな顔、もっと見てたい」
「そんなのこのあといくらでも、見られるだろ?」
「うっ、一真さんのバカ、そういうのいま駄目だから」
「注文が多いな」
下半身からはエロい、ぐちゃぐちゃとした水音が聞こえるのに、なんとも気の抜ける雰囲気。だが、なんとかやり過ごす気だった希壱は、結局――
「ごめっ、一真さんまだなのに」
「よしよし、とりあえず少し落ち着け」
気が逸っていて、メンタルコントロールができていなさそうだ。しょぼんとした様子を見て、一真は希壱の頬を優しく撫でる。
「しっかりと、とか上手くやらないと、とか考えなくていい。そういうものじゃないだろ、これは」
「うん。……一真さん好き」
「よし、いい子だ。俺も好きだから、そんなしょぼくれた顔をするな」
本物の猫のように、しゅんとイカ耳になっていそうな顔が可愛い。なだめすかし、頬や唇にキスをすれば、徐々に落ち着いたのか希壱のほうから仕掛けてきた。
「相手が一真さんで良かった」
「こういううぶで可愛いところがいい、って言うやつもいるだろうけどな。俺みたいに」
ぽつんと呟く希壱の鼻先にキスをしたら、唇にキスを仕返された。
「一真さんだけに思ってもらえたらいいや」
「俺の黒猫は可愛いな」
「いっそ俺、一真さんに飼われたい」
「外猫から飼い猫になるか?」
「なる。一真さんと暮らしたいなぁ。実家にいると俺の部屋にも呼べないし」
以前からちょくちょく、希壱は家を出て暮らしたいと言っていた。
兄の弥彦にお試し期間中と言ってあるようだが、本格的に付き合うことになったいま、色々と口を出してきそうにも思える。
「じゃあ、もう少し新生活が落ち着いたらな。いまはこっちが優先だ」
「えっ、うわっ」
同棲についても話し合いたいところだけれど、放って置かれた一真の昂ぶりがまだ治まっていない。
雰囲気が完全に流れきる前に、一真は体勢を入れ替え希壱をベッドに押し倒した。そして彼をまたぎ、Tシャツとスウェットを目の前で脱ぐ。
いまの希壱はベッドの下へと放り投げられた、衣服など目に入らない様子だ。
「舐めて」
「一真さん、すごい眺め……エロい」
仰向けに倒れた希壱の唇に、下着からはみ出した昂ぶりを押しつけ、擦りつければ、ゴクリと彼の喉が鳴った。
「んっ」
伸ばされた希壱の舌にちろりと先を舐められ、ぞくりとした快感が走る。
濡れた息を吐きながら、一真は自身の体を支えるため、希壱の頭上にある棚へ手をつく。
「この体勢、一真さんの顔が見ながらできて、すごくいい」
「ぁっ――んんっ」
チロチロと舐めていた希壱に、一気に昂ぶりを飲み込まれ、無意識に指先に力が入る。
ぎゅっと棚を掴んでいる一真に気づいているのだろう。希壱はわざと音を立てながら、一真のモノをしゃぶる。
「んっぁ、あっ……き、いち」
「腰、逃げてるよ」
「――急にスイッチ入れやがって」
「だって、一真さんがえっちだから」
「ひぁっ」
加減もなくしゃぶられ、逃げがちになる腰を両手で掴まれた。手淫でかなりいいところまで高められていたので、いまは刺激が強すぎるくらいだ。
「希壱、も、ちょっとゆっくり」
「でもイキそうでしょ?」
「だからゆっくり……ぁ、んっ」
ゆっくりと言ったのに、喉の奥までしっかり飲み込まれてしまい、体が力んで太ももが震える。
一真の様子を見ている希壱は、腰を片方で掴んだまま、空いた手を尻から太ももまで滑らせてきた。
「ふぁっ、き、い……ち、もう」
喉でぎゅっと先端を締められ、舌先で裏筋を撫でられ、腰がガクガクとしてきた一真は手元に額を預ける。
棚に上半身を傾ける状態は、同時に希壱へ下半身を押しつける形にもなった。
「ん……あぁっ」
腰から下りた手が尻を揉みしだき、指先が割れ目へと侵入する。触れた希壱はそこが濡れているのに気づいたのか、フチを撫でてから指を侵入させてきた。
「ローションでヌルヌルになってる」
「――っ」
ズブズブと指が一本入り込んできて、中をぐるりとかき回す。一真は寝室に来る前、自分で少しほぐしたけれど、他人にこの場所を触れられると、まったく違う感覚がする。
ちらりと下方へ視線を落とすと、希壱が舌なめずりをしていた。
「ごめん、早くイキたいよね?」
「まっ、た――」
再び深く奥までしゃぶりつかれたかと思えば、中に入った指が探るように動かされる。
しゃぶられている昂ぶりの裏側。たどり着いた希壱はそこをすりすりと撫で始めた。
「ひっぅ……あっぁっ、希壱っ」
ぎゅうっと力の入った一真の指先が白くなる。けれど強く掴んでいないと、膝から崩れ落ちそうだった。
うまそうに一真をしゃぶる希壱が、じゅっと先端を吸った瞬間、一真はこらえる間もなく果てた。
「ごちそうさま」
汚れた唇を舐めている、希壱の喉がゴクリと動く。飲み干されたと気づき、さすがの一真も顔が熱くなった。
「そんなもん、飲むなよ」
「美味しいわけじゃないけど、すごくおいしかった」
「はあ、もう限界」
達したら余計に体に力が入らなくなる。ぺたんと希壱の膝の上に座り込めば、ベッドサイドに置いてあったペッドボトルの水を飲んでから、希壱はキスをしてきた。
「可愛い。今日は一段と可愛い。一真さん、可愛い」
「それしか言えねぇのかよ」
「うん」
同じ言葉を繰り返し、唇、頬、こめかみなどに口づけてくる希壱にため息が出る。しかし油断をしていたら、彼の手が尻へ向かい、また侵入してきた。
「もう一本増やしていい?」
「……聞くな」
「俺判断にしたら、暴走しちゃうよ?」
「裂けない限りいい」
「いや、照れ隠しでも大雑把すぎるから。怪我させないようにここはゆっくりするよ」
そう言いながらも、希壱は中の指を動かしているので、一真は彼の肩口に頭を預けているしかできない。
「一真さん、自分でほぐしたんだよね? かなり柔らかくてびっくりする。中に挿れたら気持ち良さそう」
「耳元で喋るな」
「無茶言わないで」
肩に頭を乗せているのだから、希壱の言い分は正しい。それでもいまは、悪態でもついていないとやり過ごせないのだ。
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