ベッドが軋む音と、幸司の上擦った甘い声が響く。真澄にしがみついたまま、自ら激しく腰を揺らす姿は、セックスと言うより自慰のように見える。
それでも気持ち良さに飲み込まれた幸司は、自分を止めることができない。
「かっわいいな、そんなにいいんだ?」
「んっ、いいっ、ぁ、とまん、ない。真澄さんっ、……気持ちいい。ぁんっ、もっと、もっとぐちゃぐちゃって、して、中もっとっ」
「じゃあ、キスして」
「する、……んっ、は、ぅんっ」
唇にかぶりつくみたいなキスをして、拙い動きで真澄の舌に自分のものを絡めた。口の中で唾液が絡まる水音が響き、それだけで幸司は心を揺さぶられた。
とろんとした目で彼を見つめると、目の前の唇が弧を描き、下から激しく突き上げられる。
「ぁ、ぁっ、そこ、もっとっ」
自分のイイところへ、真澄の熱を擦りつけるように、ゆらゆらと腰を動かす幸司は、開きっぱなしの口から甘えた声をこぼす。
しまいには涙をこぼし、彼の首元へ顔を埋めた。
「んんっ、ます、みさん、おれ、へん」
「ん?」
「もぉ、ずっと、……きもち、いい」
「あーあ、トんじゃったな。気持ちいいの辛い?」
「つら、くない。頭ん中、ばか、になった」
首筋にキスをされるだけで、幸司はきゅっと真澄のものを締めつけてしまった。なにも考えられず、気持ちがいいことがもっと欲しくなる。
あやすように髪を撫でられて、頬に口づけられるだけで、敏感に反応した。
「そろそろやめとこう。中イキを覚えちゃったから、際限ないだけだよ」
「やだ、抜かないで、もっと、したい」
「駄目だよ。ほら、こうちゃんの中、もういっぱいだよ」
身体を倒してきた真澄にぐずついた声を上げると、顔中にキスをされ、シーツに押し倒される。さらには腰を引かれて、埋められていた熱が抜けた。
それとともにドロリと、中に吐き出されていたものが溢れてくる。その感覚に幸司は、もったいないと言わんばかりに、脚を閉じた。
「真澄さんの、出ちゃう」
「またいっぱい注いであげるから。そのままにしてると、お腹が痛くなるよ。お風呂に入ろう」
「むり、立てない」
先ほどまで散々腰を使っていたのに、我に返るとまったく持ち上げられない。それどころか足まで力が抜けて、ひどく震えてしまうほどだ。
そんな幸司の様子に、真澄はにんまりとした笑みを浮かべる。
「じゃあお姫さまは俺が運んであげるよ」
「え? 俺、重い」
「平気だよ。おいで」
頬を赤らめ、目を瞬かせる幸司に小さく笑った真澄は、両手を差し伸ばしてくる。その仕草に逡巡する幸司だったが、ほら、とさらに促されて、そろりと近づく。
両手を伸ばし、恐る恐るまた彼の首元に抱きつけば、そのまま軽々と持ち上げられた。薄っぺらく貧相な身体でも、幸司の大きさは標準以上。
ハラハラとしてしまうけれど、真澄は重さを感じさせない足取りで歩き出した。
「お、おもく、ない?」
「重くないよ。というより、こうちゃんの身体はちょっと軽すぎる。六十キロないよね?」
「う、うん」
「もう少し肉付きがあっても平気だよ」
「そう、なの?」
高身長成人男性の標準体重、というものがよくわからず、幸司は驚きの目で真澄の横顔を見る。だが言われてみれば、肉付きはまったく良くなく、ガリガリ体型。
それに比べると真澄は、細いのにしなやかな筋肉が、しっかりついていた。
「真澄さん何キロ?」
「俺? んー、たぶんいまは六十五くらいじゃないかな」
「そんなに?」
「筋トレもしてるしね。こうちゃんはもっと、筋肉をつけないと」
「うん」
小さく返事をする幸司だけれど、重くなったらこうして抱き上げてもらえなくなる、ような気がして少しばかりもったいなく思えた。
「よし、こうちゃん。中、洗うからお尻ちょっとだけ上げて」
「じ、自分で、できるよ」
バスルームに身体を下ろされると、真澄は早速とばかりにシャワーを掴む。その姿は初めての時を思い起こさせ、恥ずかしさが湧いた。
そわそわとしながら、幸司が身を縮ませれば、なぜか彼はやけに嬉々とした顔をする。
「ああ、こうちゃんが自分で指を突っ込むのも、そそるね。してるところ見せてくれるの?」
「へっ、あっ、えっ、と、……それも、恥ずかしい」
「いい子だから、後ろ向きな」
「う、ん」
真澄に背を向けると、いきなり指を突っ込むようなことはせず、身体に優しくお湯をかけられた。汗や汚れを落とすように、念入りにシャワーを当てられ、少しずつ身体が温まる。
ふいにうなじに彼の唇が触れ、肩を震わせているうちに、窄まりを指で広げられた。
「んっ」
お湯が入り込む感覚と、彼のものが指で掻き出される感覚。処理をしてくれているだけなのに、幸司はたまらず熱い息を吐いた。
平らな浴室の床を掴み、そこに額を押しつける。
「ぁっん」
「こうちゃんのここ、すっかりえっちになった。縁がぷっくり膨らんでる」
「ひぁっ、ま、ますみさん! いま、なにしたの?」
「おいしそうだなって思って」
後ろで膝をついている真澄を振り返ろうとすると、尻の奥にねっとりとした感触がした。さらにそこを何度も撫でられて、幸司の肩が跳ね上がる。
「真澄さん! だ、駄目、そんなとこっ、んんっ」
尻を掴まれ、割り開かれて、温かなものが押し込まれた。それが真澄の舌であることに気づけば、カッと幸司の顔が紅潮する。
足元に転がったシャワーの水音が響くけれど、さらにちゅぷっと唾液が滴る水音が響く。
「ああっ」
指とも彼のものとも違う感触。柔らかくて温かくて、中を弄り回されると、気持ち良さが込み上がってくる。
「真澄さん、それじゃ、イケない」
「自分でしていいよ。俺もちょっと出したい」
「……んっん」
熱のこもった息を吐いた真澄が、背後で自分のものを扱いているのがわかる。そろりと手を伸ばして幸司も自身の熱を握った。ゆるゆると動かし、真澄の舌を感じながら、行為に耽る。
二人分の水音が、空間に響いてひどく興奮した。
「ぁあんっ」
浴室の床を汚したのとほぼ同時に、足元に真澄の体液が飛び散った。肩で息をして幸司がうずくまると、後ろから伸びてきた手に抱き寄せられる。
「ごめんね」
「へ、平気。……思えば、俺一人で、イってばっかりで、真澄さん、あんまり」
「大丈夫、すっきりした。立てる? おいで」
「うん」
お湯がたっぷり張られた湯船に、二人で足を浸す。傍においでと、真澄に手を引かれるが、幸司は向かい合うようにして湯に浸かった。
している最中は行為に、意識を全部持っていかれて、真澄の顔をゆっくり見ていなかったからだ。
両手を繋ぎながら向かい合って、やんわりと笑う彼に、デレデレと頬を緩める。すると手を掬い上げられて、指先にキスをされた。
「こうちゃんは可愛いな」
「真澄さんは、綺麗で、格好いいね」
「ありがと。そういえばさ、前にこうちゃん、言ってたよね」
「なに?」
「なんでもしてくれるって」
「あっ、うん。言った。決まった?」
写真を撮らせてもらう代わりに、幸司はなんでもすると言った。あの時は考えておくと言われたが、なにを思いついたのかと、真澄を見つめる。
「やっぱりここでさ、一緒に暮らして欲しい、って思うんだけど。こうちゃん的にはどう?」
「えっ、い、一緒に?」
「重い? うざい? 嫌? 要求が大きすぎるか」
「ええっ、待って勝手に答えを決めないで!」
どこかしゅんとしたような真澄の表情に、焦りが湧いた。落ち着きなく視線を動かして、幸司はあれこれと頭の中で言葉を探す。
しかし時間を置くほどに彼の顔が、不安そうになった。
「暮らす! それはこの先も俺と一緒に、いてくれるってことだよね? 好きでいてくれるんだよね?」
「うん。でもお別れしたくなったら、さよならって言っていいよ」
「言わないよ! 俺、真澄さんとずっと一緒にいたい」
「じゃあ、約束」
「うん、約束」
そっと小指を差し出されて、幸司はその指に、自分の小指を絡ませる。すると途端に目の前の顔が、幸せそうに綻んだ。
つられて幸司も笑えば、見つめ合い、自然に二人は顔を寄せ合う。触れた唇はいままでで一番甘かった。
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