頭に浮かびそうになった妄想を慌ててかき消す。やばいやばい、なんでそんな想像しようとしてんだよ。二ヶ月ご無沙汰なだけで欲求不満とかあり得ない。いかん、気をしっかり持て。
そんなジタバタする俺に目の前の二人は不思議そうな顔をする。その視線に恥ずかしさが倍増した。顔が熱くて、多分目で見てわかるほど紅潮している。
「笠原さん? どうかしましたか?」
「な、なんでもないです!」
ふと心配そうな表情に変わった鶴橋が、顔を近づけてのぞき込もうとしてきた。それに驚いて俺はあからさまに一歩後ろに下がってしまう。開けた玄関扉を閉めて引きこもりそうな勢いの俺に、鶴橋は少し寂しそうな顔をする。
「ほら、行くよ、
しばらく顔を見合わせた状態で固まってしまったが、その空気を崩すように光喜が声を上げた。けれどふいに感じた手のぬくもりに俺はまた驚いてしまう。
「おい、
おもむろに俺の手を掴んだ光喜にこそこそと耳打ちをする。慌てて手を振りほどこうと力を込めたら、それを遮るように手に力を込められた。
「勝利、忘れちゃ駄目だよ。いまは俺と付き合ってるの」
「だとしても、繋がなくても」
「少しは仲いいところ見せないと信じないよ、あの人」
「って言うか、お前はいいわけ? 野郎と手を繋いでるの見られて」
「まあ、大したことじゃないよ。面白いしね」
目を細めた光喜の笑みに思わずあんぐりと口が開いてしまった。そうだ、この男。楽しければなんでもいいって性格だった。
「笠原さん、行きましょうか」
「あ、はい、いま行きます」
光喜の手に視線を向けて少し顔をしかめたけれど、鶴橋は見なかったことにするみたいにそこから目をそらした。そしてこちらに背を向けてゆっくりと先を歩き始める。俺は慌ただしく部屋の鍵を閉めてそのあとに続く。
しかし道を歩いているあいだだけではなく、電車に乗っても光喜の手は離されなかった。それには俺も非常に困って、さすがに離すよう文句を言ってしまう。いままで付き合った子とだってこんなに手を繋いだことがないのに。
このモテ男、案外扱いに困る。
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