まっすぐと見つめてくる視線に、言葉が詰まってしまった。なにを言えばいいのだろうと、頭の中が軽いパニックになる。これじゃあ、相手に興味があるみたいじゃないか。現に鶴橋はものすごく期待に満ちた顔をしている。
「これは、その、特別な意味じゃ、なくてだ。俺のことあれこれ知ってんのに、俺が知らないってのは、ちょっと不公平だと」
あれ? ちょっと待って、なにかおかしい。なんだか間違った方向に訂正していないか? 不公平ってなんだ! え、全然不公平とかじゃないだろ。知る必要ないし。
「違う! えっとそうじゃなくて、まったく知らない相手と一緒にいるのも居心地悪いから」
うまい言い訳が出てこない。焦りばかりが先走って耳まで熱くなってきた。なにを言ったら言葉を取り消すことができるのか。それがわからない。
「笠原さん」
「は、はいっ」
いつの間にか俯いて地面を見ていた。けれどふいに聞こえてきた優しい呼び声に、弾かれるように顔を上げる。見上げた先にある顔は少し困ったように眉を寄せていて、挙動不審な俺のせいで余計な心配をかけさせているのがわかった。
「あっ、えっと、その」
「あとでゆっくりお話しします。なんでも聞いてください。でも上映時間そろそろですし、先にそっちを見てからにしましょう」
これはあれだ、とにかく落ち着けと言うことだ。やんわりと微笑んだその顔にいまは少し救われた気持ちになる。あんなに反応に困るとか苦笑い浮かべるくらいだったのに、穏やかな眼差しは乱れたものを落ち着かせてくれた。
「すみません」
「いいえ、思わずでも自分のことを考えてくれて嬉しいです」
小さく笑ったその顔になにも言葉が出てこない。全部こっちの気持ちは見透かされているんだ。そう思うとますます申し訳ない気持ちになる。こうやってずるずると先延ばすようなことをしていていいのだろうか。
「鶴橋さん」
「いまは、楽しいこと考えましょうか」
やんわり言葉を遮られた。こちらを見る目が言葉の先を拒んでいる。そんな顔をされたらどうしたいいかわからなくなる。いますぐ答えを出してすっきりしたいのに、まっすぐに向き合わなければいけないって思ってしまう。
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