友達みたいにはいかないってことだよな。面白かったことを誰かと共有するのは楽しいけれど、それはあの人とすることじゃない。でもなにかあるごとに気にかけてくれて、振り向いてくれる。それが嬉しくないかって言ったら嘘だ。
出掛ける前は確かに面倒くさいな、早く帰りたいな、なんて思った。だけどあんまり熱心に尽くされると喜びたくなってしまう。
「勝利、しっかりしなよ。もう、ほだされちゃってるでしょ。断るんでしょ?」
「ああ、うん。もちろん」
「ほんとにもう、心配だなぁ。ついてきてよかった。絶対にあの人といたらこうなるってわかってたよ。ほら、しょげた顔しないで」
なんだか浮き立った自分の反応に気づいて一気にへこむ気分になった。そんな俺を光喜はなだめるように頭を撫でる。ぽんぽんと頭に触れる手は優しくて、これ女の子だったらマジでイチコロだろうなって思う。
なんだよもう。光喜は変に優しいし、鶴橋もベタ甘に優しいし。こんなに至れり尽くせりな状況もう二度とないよな。
「光喜、なんでそんなに優しいんだ?」
「えー、それは、俺の大事な彼氏だからね」
「おまっ、わざと聞こえるように言ってるだろ」
「ねぇ、勝利。本当に俺と付き合おうか? 俺、勝利ならいいよ」
「はっ?」
これはどういう展開だ? 付き合う? 俺と光喜が? いやいや、ないだろう。そもそも俺はノンケとは付き合う気がないって、何度も言ってるよな。大体こいつは真面目に言ってるのか?
こちらをじっと見つめてくる視線を見上げたら、やたらと真剣な光喜の顔があった。
「え? いや、それはないだろう。だって」
そもそも面白いから乗っかってやったくらいのノリだったじゃないか。それなのに、ふいに身を屈めた光喜が目の前に迫る。瞬きをする間もなく近づいた光喜は、ぽかんと口を開けた俺の唇に口づけた。押し当てられた唇は柔らかくて変にドキドキする。さらにやんわりと下唇を囓られて、驚きのあまり肩を跳ね上げてしまう。
「これで、信じる?」
「うぇっ? ちょっと、待って」
これって状況悪化してるって言うんじゃないのか? 俺はどちらとも付き合う気がないって言ってるのに、光喜まで本気になられたら両側を挟まれてまったく逃げ場がない!
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