好きは簡単そうで難しい、はずなんだけど

 どうしてこうも前のめりなんだろう。鶴橋だけじゃなく光喜もだ。簡単に男が好きだとか、思い込める頭の中を覗いてみたい。人を好きになるのに理由なんてない、そんな言葉もあるけれど。いままでの概念を飛び越えるのは安易じゃない。

「とりあえずさ、鶴橋さんも光喜も冷静になって」

「ちょっと、勝利! 俺は至って冷静!」

「自分も冷静ですよ」

「いや、だって……惚れるきっかけが唐突すぎるでしょ。鶴橋さんのは思い込みっぽいし、光喜のは絶対に雰囲気に流されてるし」

 ずっと見てたら好きになるって、あり得ないことだとは思わない。だけど男が好きだから男の自分が大丈夫だなんて、どうしてそこが恋愛に変換されるんだ?
 光喜だって小学生の頃から一緒で、いまさら甘ったるい恋愛なんか出来ないだろう。お互いのこと知りすぎてて逆に不安になる。

「勝利はなんでそんなに頭が固くなってんの? 振られたばっかで意固地になってない?」

「うるさいな! 振られたとか言うな……確かにそうだけど」

「慎重になりすぎていませんか?」

「いやいや、そこは慎重になるところでしょう! あんたたちが軽率すぎるんだよ!」

 なんだこの二対一って言う不利な構図。そもそも俺はノンケは嫌だっていってるじゃないか。それなのにそんなに息を合わせてこられたって、困る。困るんだよ!
 二人とも優しいから気持ちがちょびっと揺れ動いちゃうだろう。こっちはあんなに優しくされたことないんだから、そういうの弱いんだよ。

「勝利、この男と付き合うくらいなら俺にしてよ。俺ほど勝利のことわかってる男いないでしょ?」

「光喜さんほどの付き合いはないですけど、想っている感情なら負けていないと思いますけど」

 さっきまで息が合っていたのに、今度はバチバチと敵対し始める二人にため息が出る。だからこういう展開は慣れてないんだって。

「ねぇ、今度は一対一でデートしよう。俺とこの人、一緒にいてどっちがいいか選んでよ」

「は? なんで選ぶこと前提なんだよ」

「じゃあ、俺たちが納得できるように振ってよ。ノンケに傷つけられてきたから付き合いたくないってだけじゃ納得できない。勝利はいまちょっと俺たちにほだされてるでしょ?」

 明け透けな光喜の言葉に、それは違うと、反論したかったのにうまく言葉が出てこなかった。

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