道の隅にうずくまってどのくらいが経っただろう。静かな住宅街に足音が聞こえて、息を上げた光喜がまっすぐに俺のところへ駆けてきた。膝に埋めていた顔を上げれば、両手で頬を撫でられる。
「勝利、泣いてたの?」
「泣いてない」
「でもすごく泣きそうな顔してるよ」
目の前で視線を合わせるようにしゃがんだ光喜は心配そうな顔で俺の顔をのぞき見る。その視線に気恥ずかしくなって目をそらすと小さく息をつかれた。
「あの人がなにかしたの?」
「……なにもしてない」
「え? じゃあ、どうしたのさ」
「だから、なにもしてないんだ」
訝しそうな顔で首を傾げる光喜に、今度は俺が息をついた。ちょっと言い方が遠回しすぎたかもしれない。けれど言っていることが間違っているわけではない。鶴橋はなにかしたのではなく、なにもしてくれなかったのだ。
「コンビニに来ないし、連絡もないんだ。ただ、それだけ」
「ふぅん、そっか。勝利の中では会いに来るのが当たり前で、連絡が来ないのも放って置かれた気分になるんだ。傷ついた?」
「別に、傷ついてなんか」
「まいったなぁ、そこまで好きなんだ。あんなストーカーみたいなやつ絶対にないって言ってたのに。やっぱり時間を持たせたのは失敗だったな」
「ちょっ! 勝手なこと言う、なっ」
ため息交じりの光喜の言葉に反論しようと顔を上げたら、伸ばされた腕に抱きしめられた。強く抱き寄せられて身体が前のめりに傾く。突っぱねようと思ったが、それをさせまいとするようにさらに引き寄せられる。
「なっ、なんだよいきなり!」
「抱きしめてあげるって言ったでしょ」
「いまそういうタイミングかよ!」
「そういうタイミングだよ、俺的に」
はあ、と大きなため息を吐き出しながら光喜は俺の横顔に頬を寄せてくる。腕の力は強いし、ぐりぐりとすり寄られているし、正直少し苦しい。
「まだ自覚が足りてないのが救いだよね」
「光喜、独り言が大きいぞ」
「ねぇ、勝利」
「ん? んっ! ……っ!」
ふいに顔を上げた光喜が俺の顔をのぞき込んだかと思えば、いきなり勢い任せにキスをされた。
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