ノンケだから近づきたくなかった。また同じことを繰り返されるんじゃないかって不安でたまらないから。だけどそれよりもずっともっと気持ちは育ち始めていた。胸が痛くて苦しいのは自分の気持ちを自分が裏切るから。
まっすぐに好きだと言われるたびにその熱が移り始めていたんだ。一度ピースがはまるとその感情が明確になる。
「俺、あんたのこと信じてもいいんだよな?」
「……はい、信じてください。もう今回みたいに笠原さんを不安にさせることはしません」
「じゃあ、あんたのことが好きだって開き直るけどいい?」
「もちろん、嬉しいです」
手を伸ばしてまた頬を撫でると、瞬いた瞳から目尻にたまっていた涙がこぼれ落ちる。その伝い落ちるそれを拭うように唇を寄せたら、大げさなくらい肩が跳ね上がった。その反応に首を傾げるとますます顔が赤くなる。
「か、笠原さんっ」
「なに?」
「急に近くなると、どうしたらいいかわからなくなります」
「なにそれ、めちゃくちゃ可愛い」
俺の好みは俺より背が小さくて、子猫みたいに丸い瞳の可愛い子。だけど俺よりだいぶ背が高くて切れ長の目をしている男らしいこの人が、いまはやけに可愛らしく見えてドキドキする。
「俺、好きな子は甘やかすのが好きだから」
「えっ、あの、待ってください」
「なんで? いままでの勢いは? キスしたいんじゃなかったっけ?」
一歩踏み出すと一歩後ろへ下がる。さらに足を踏み出せば、もう後ろはアパートの手すりがあるのみだ。ギリギリまで追い詰めて手すりを掴むと、視線の先には頬を真っ赤に染めた顔が見えた。
「こんなことで照れてたらこの先どうするの?」
「この先?」
「自分はどっちでもいいですって言ったの、鶴橋さんだよね?」
「言い、ましたが、急な展開は想定してませんでした」
「ああ、うん、まあ、急に迫ったりしないから安心して。俺もゆっくり恋愛したいし」
ことを急いで無理矢理にって言うのはあんまり好みではないし、こうやって反応を楽しむだけでもかなりいい気分がする。けれど満面の笑みを浮かべた俺に鶴橋はどこか不安げな表情を浮かべた。
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