散々貪った身体を手放したのは確か二十四時前くらい。寝落ちた冬悟の身体を綺麗にして、シーツを取り替えて、シャワーを浴びてから一時頃にベッドに潜り込んだ。そのまま深く寝入ったのだが、朝方カタカタと振動する携帯電話に起こされた。
それは無視して寝ようとする俺の気持ちを測ることなく何度も音を響かせる。布団を被って潜り込んだらしばらく音が止んだが、数分も経たないうちにまた音が響く。そうこうしているうちにその音で冬悟が目を覚ました。
「笠原さん」
「んー、うるさいよな。ごめん、出る」
腕を伸ばしてベッドボードの上の携帯電話を掴む。時刻は五時だ。こんな時間に誰だよと思ったら、小津からだった。
「あー、はい。小津さん、こんな朝っぱらからなに?」
「勝利くん!」
いきなり縋るような大きな声を出されて、思わず携帯電話を耳から遠ざけてしまう。けれどなにやら早口で小津はしゃべり続けていた。改めて耳を近づけると思わぬ言葉が飛び込んでくる。
「えっ、ちょっと待って! 小津さん、それほんと?」
「ど、どうしたらいいかな」
「え? いや、待って。どうしようって、もうしちゃったんでしょ?」
「このまま帰ったほうがいい?」
「馬鹿! やり逃げしてどうすんだよ!」
おどおどする小津の声に思わず大きな声を出してしまった。その言葉に電話の向こうの小津は言葉をなくす。おそらくいまの言葉が胸に突き刺さっているのだろう。
「笠原さん、どうしたんですか?」
額に手を当てて俯いた俺を冬悟が少し焦った顔でのぞき込んでくる。けれどしばらく俺の口からは大きなため息しか出てこなかった。
小津もかなりパニクっているのだろうが、こっちも頭の整理が追いつかない。それでも深呼吸して冬悟の顔を見つめ返した。
「小津さん、光喜に手を出しちゃったらしい」
「えっ?」
「いや、正しくは酔っ払った光喜に襲われた、かな。あのあとも光喜に深酒させられたみたいなんだけど、寝込みを襲われて酔っ払った勢いでしてしまったらしい」
「えっ?」
ため息交じりの俺の言葉に冬悟からは同じ反応しか返ってこない。話がうまく飲み込めていない感じだな。俺もまったく飲み込めていない。
まさか光喜のほうから小津を押し倒すなんて予想はしていなかった。
「しょ、勝利くん、どうしよう」
「どうしようって、いまさらどうしようもなにもないだろう。あー、もう。光喜はまだ寝てんの?」
「うん」
「わかった、いまから行くよ。でもお互い飲んで酔っ払ってたとは言え、ヤったんだから腹くくれ。言い訳はするな」
小さくなった小津の声にまた大きく息をついて、とりあえず通話を切った。布団を剥いでベッドから降りると、ようやく冬悟が瞬きをする。その顔に思わず肩をすくめてしまった。
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