昨日の夜に散々教え込んだ性感帯だ。まだ忘れてはいないのだろう。と言うよりも、この身体は快楽に対してまっさらだ。女相手には勃たなかったので、いままで自慰もろくにしてこなかったと言っていた。
なおさら他人に与えられる快楽はたまらない刺激になるはずだ。膨らんだ胸の尖りを指先でいじるたびに腰が跳ねる。デニムの下にある熱はすでに窮屈そうに立ち上がっていた。
「く、りゅうさん」
「ん?」
「ごめんなさい、もう立っていられないです」
「ああ、悪い」
震える手でしがみつかれて思わず自分に苦笑いしてしまう。少し急いた気持ちになっていた。目の前の身体を抱き上げると小さなシングルベッドの上に横たえる。すると竜也はおぼつかない手で小さなボタンを外し始めた。
ボタンが外されるたびに見えてくる白い肌に、知らず知らずのうちに息を飲んだ。最後の一つが外されると、覆い被さるように顔を近づけ尖りにしゃぶりつく。
「あっんっ、九竜さんっ、駄目、駄目、待って」
か細い制止の声が聞こえてくるが、それを聞き流して執拗に胸の尖りに吸いついた。手を伸ばしてデニムのボタンを外し、ファスナーを引き下ろすとそこに手を突っ込む。ボクサーパンツに形を浮かび上がらせる熱に触れると、それだけでじわりと指先が濡れた。
「んっ」
「そんなに吸われるのがいいか?」
「ぁ、だって、九竜さんが、昨日いっぱい触るから、すごくじんじんする」
「昨日より膨らんでるな。もう片方も触ってやろうか」
「駄目、すぐにおかしくなっちゃう」
涙目でそんなことを言われてやめる気になる男がいるのなら見てみたいものだ。ぐっと力任せにデニムとボクサーパンツを引き下ろすと、外気にさらされた熱がふるりと震える。それは先ほど吐き出したばかりなのに、しっかりと芯を持っていた。
「竜也、上と下どっちを舐めて欲しい?」
「わ、わからないです」
「それよりこっちにしようか。昨日の続き、してやるよ」
先走りで濡れ始めた後ろの窄まりを触れると、こぼれ落ちそうなくらい目を見開いて首筋まで紅に染める。
まだ誰にも侵入を許したことがないだろうそこは固く閉じているが、指先で撫でてやるとひくりと反応を示した。
そしてそんな素直な反応と同様に、羞恥に赤らんだ顔は期待を含んだ目をしている。清純そうな顔をしているのに性に対して貪欲なところ、嫌いじゃない。
「後ろ向いて、四つん這いになってみろ」
「は、はい」
足に絡まっていたものを取り去ると、竜也は恥ずかしげに頬を染めながら小さな尻をこちらへ向けた。その様子にご馳走を前にした獣のような気分になる。いまにでも襲いかかりたい気持ちをなだめすかし、紛らすようにジャケットとシャツを脱いだ。
「初めてなのにゴムもローションも用意してないなんて準備不足だったな」
「大丈夫です」
「しっかり慣らしてやるから」
尻たぶを掴んで開くと未開発の綺麗な蕾がある。それをたっぷりの唾液を含ませて撫で上げると、腰がビクリと跳ね上がった。さらに柔らかくなるように襞まで丹念に舐めてやれば、枕に顔を埋めて肩を震わす。
「気持ち悪いか?」
「ち、違います」
「じゃあ、中まで挿れるぞ」
尖らせた舌先を奥へと挿し入れれば上擦った声が漏れ聞こえてくる。抉るようにぐるりと内壁をなぞると、甘い声が上がった。あまりにも快楽に従順すぎて驚くが、嫌悪感がないのならば問題はない。
だらだらとこぼれている先走りの滑りを借りて指も押し込めば、刺激を求めるように腰が揺れる。
「こんなにいやらしい身体。いままで手つかずだったなんてな」
「あっ、ぁっ、九竜、さんっ」
「気持ちいいか?」
「いいっ、中、いいです」
ドロドロになってきたそこはもう指を二本も銜え込んでいた。ぐちゅぐちゅと音を立てて抜き挿ししてやれば、甲高い嬌声が響く。枕にしがみつきながら腰を揺らすその姿は、正直見ているだけでもイケそうなくらいに色っぽい。
まだ早いかもしれないが、こちらもさすがにこれでは暴発しかねない。
「竜也、挿れるぞ」
「あぁっ、挿れてください。九竜さんの欲しい」
「あんまり煽るな。加減が出来なくなる」
これでは挿れただけでイキかねない。こんなにいやらしいなんて想定外だ。けれど早く熱を突き入れたい気持ちのほうが強かった。反り立つ熱を熟れたばかりの窄まりに押しつける。
「あ……ぁっ、んっ」
「苦しいだろう」
「だ、いじょうぶ、です」
欲の塊を受け入れたことのない小さな窄まりは、ぎちぎちと押し広げられながら熱を銜え込んでいく。そのたびに苦しげな声が聞こえるが、引き抜こうとするとやめないでと懇願される。
「あっ、九竜さん、奥、奥まで来て」
何度も入り口で抜き挿しを繰り返して馴染ませると、少しずつ奥へと熱を押し込んだ。すると次第に身体が慣れ始めてきたのか竜也の腰がまた動きに合わせて揺れ出す。
「んっ、ぁっ、どうしよう、気持ちいい」
「痛いとかよくないよりいいだろう」
「だって、初めて、なのに」
「素直な身体ってことだろ。可愛いよ」
腰を引き寄せて中を舐るように突き上げれば、耳に心地いいくらいの喘ぎ声が響く。甘ったるくて、行為をねだるみたいに縋りついてくるそれがたまらなく欲を誘う。気づけば何度も腰を小さな尻に打ち付けていた。
「九竜、さんっ、駄目っ、もう」
「……くっ」
中がうねるように痙攣して、それに一気に持っていかれる。中に出すわけにはいかないと慌てて引き抜くが、すぐに背中にぶちまけてしまう。それと同時に竜也の身体がベッドに沈んだ。
「大丈夫か?」
「平気、です」
「少し無理させたな」
枕元にあったティッシュで吐き出したものを綺麗に拭い、そっと顔をのぞき込む。汗ばんだ前髪を掬うと、枕に埋められていた顔がこちらを振り返った。その顔はどこか満足げで、視線が合うとやんわりと微笑んだ。その表情があまりにも可愛くて、惹き寄せられるように口づける。
「やっぱり」
「ん? やっぱりなんだ?」
「んふふ、やっぱり九竜さんだからいいんだと思います。ほかの人とって考えると、想像できない」
先ほどまでの艶やかさとは違うあどけない笑みで、人の心を鷲掴みするようなことを言う。
しかしそこに自覚はまったくなさそうで、思わず苦笑いを浮かべてしまった。そんな俺の反応に竜也は不思議そうに目を瞬かせる。
「九竜さん?」
「そうか、じゃあ、俺と付き合うか?」
「え?」
「俺がいいなら、俺のものになればいい。嫌か?」
「……あ、嫌じゃないです。でも、九竜さんは誰か一人だけって言うタイプじゃないって思ってました」
「まあ、その通りだが、あんたは特別だ」
自分の性質を見透かされていたのかと思うと少し気恥ずかしさがあるが、いまここで恥ずかしがって躊躇している余裕はない。このままセフレで落ち着くようなことは絶対に避けたい。ほかの誰かにこの男を盗られるようなことになっては困る。
「どうする?」
「いいのかな、こんなこと」
「どういう意味だ?」
「街角でばったり出会った人と運命的な恋をするなんて、お話の中の出来事みたい」
「夢物語じゃないから、ちゃんと答えを聞かせてくれ」
子供みたいな顔で笑う竜也に思わず返事を急いてしまう。笑ってはぐらかされたらたまらない。けれどそんな俺に目の前の顔はますます楽しげに笑った。
「嬉しい。九竜さん、独り占めに出来るんですね。いまだけだって思ってたから」
「竜也」
「初めての本当の恋なんです。大事にしてくださいね」
「……もちろんだ」
ひどく幸せそうに笑うから、ひどく胸が苦しくなる。こんな痛みはいままで知らなかった。愛おしいと思うほどに胸が苦しくなるなんて、初めて恋をしたのは俺のほうじゃないのか。
まっすぐに両腕を差し伸ばされて、引き寄せるように身体を抱きしめた。これからどんな感情を知るのか、少し怖くもあるがいまは満ち足りた気分のほうが大きい。
「九竜さん、好きです」
「ああ、俺もだ」
出会い頭に一目惚れの恋なんて、絶対にあり得ないと思っていた。しかし人との繋がりというものは未知数だ。
生涯一人でいいなんて言っていたはずの自分に訪れたこの運命的な出会い。それをこれからもっと噛みしめることになるのかもしれない。
街角は恋をする/end
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