軟膏を塗りたくり、何度も蕾を指先で撫でほぐしていくと、次第に焦れてきたのか、淳の腰がいやらしく揺らめく。
それでも丹念にそこを優しく開いていくと、入り口のあたりや奥を指先で触れるたびに、涙を目尻に溜めながら小さな声を漏らして喘ぎ出した。
「淳くん、可愛いね」
「高遠、さんっ、前、前も触って」
「いいよ、あとはどこがいい?」
可愛いおねだりに口元を緩めると、雅之は淳が望むままに快楽を与えていく。彼の身体は彼の性格そのままに従順で、与えれば与えるほどに淫らになっていった。
それが自分の手によるものだと思えば思うほど、興奮を覚えずにはいられなかった。
「んっ……やっ、強くしないで、駄目」
指で中を優しく弄り、勃ち上がった熱をゆるゆると撫で上げれば、身体をぴくぴくと震わせて淳は快感を追い始める。
その姿を見下ろして、雅之は無意識に捕食者のように舌を舐めてしまう。
正直何度か淳で想像したことはあったけれど、それを遥かに超えるいやらしさが目の前にはあった。
男であることが問題だと、そう思っていた最初の気持ちはどこへ行ったのだろうかと雅之は口を歪める。
だが考えるだけ無駄なような気もした。
彼を想像して自慰をする時点で、そんなことは問題ではなくなっている。
なんとなく自分に、ブレーキをかけたかっただけなのではないかと、腕の中で乱れる淳を見下ろし雅之は自嘲した。
「淳くん、中、入れてもいい?」
いつの間にか三本もの指を飲み込んでいた蕾は、押し拓かれ、軟膏が溶け出し、とろとろと指にまとわりついてくる。その奥を想像して雅之の喉が鳴った。
「な、か? あっんっ……あっ」
指で中をかき回しているうちに、また淳の身体がびくりと跳ね、雅之の手が白濁で濡れる。けれどもう何度も吐き出し、だいぶその量も減ってきた。
幾度も与えられる快楽に淳の息が乱れて、熱くなってくる。
「これ、入れてもいい?」
その姿に雅之自身も我慢の限界だった。スラックスの前の寛げ、昂ぶってそそり立つものを蕾に擦りつけると、ゆるゆるとそこに熱を押し付けて腰を揺らした。
「淳くん」
再び請うように耳元で囁くと、腕を伸ばし抱きついてきた淳が小さく「欲しい」と囁いた。その言葉だけで雅之は一瞬イキそうになるが、腹の下に力を込めてそれをなんとか回避した。
「あんまり可愛いこと言われると、さすがにクルものがあるね」
ひと呼吸おいて気持ちを落ち着けると、傷つけないようゆっくりと、小さな蕾にそり立つものを押し込んでいく。
ひくひくと小さく動きながら、それを飲み込んでいく様は、実に官能的だと思った。
排泄器官でしかないはずのそれが、雅之のものを飲み込むたびに、いやらしい性器に変わる。
「あっ、ぁんっ」
しばらくそこが馴染むまで、身体を撫で口付けを落とし、淳が望むままに愛撫していると、また焦れたように彼は腰を揺らす。
おそらく無意識なのだろうが、その様があまりにも可愛らしく、雅之は耳元に唇を寄せた。
「淳くんは意外と欲しがりだね」
耳たぶを食み、意地悪く雅之がそう言えば、淳が「ごめんなさい」と両手で顔を覆い、小さな嬌声とともに甘い声を漏らす。
「ちょっとそれは、反則」
淳の声に雅之は堪えていたなにかが、外れたような気がした。気づけば性急に腰を突き動かして、彼の身体を揺さぶっていた。
奥を突くたびに、半開きになった淳の口から甘ったるい声が漏れる。
その声は雅之の身体中を痺れさせ、熱を高めていく。律動を早めれば、淳は腕を伸ばししがみついてきた。耳元で聞こえる掠れた声に誘われるまま、雅之は彼の身体を余すことなく味わった。
ふっと深い眠りから目が覚めた時、雅之は身体にかかる重みを感じて目を開けた。
目を開けると、そこにあったのはリビングの天井で、少しだけ視線を下ろせば、腹の上で淳が規則正しい寝息を立てながら眠っていた。
肩先までかけた毛布と、人肌で肌寒さは感じない。それどころかなんだか胸の奥まで熱くなってくる。
あどけない淳の寝顔は、だらしないくらいに雅之の頬を緩ませた。そして可愛いと、そう思いながら頬にかかる毛先をすくい撫でて、昨夜のことを思い起こす。
しつこいくらいに何度も淳の身体を押し拓いて、その刺激に泣き震えるまでそれを繰り返した。
ひっきりなしに聞こえてくる嬌声が雅之を煽り、彼が泣き疲れて眠るまでそれは続いた。
初めてだと、言っていたのに無茶をさせたなと、その姿を見て我に返りはしたが、雅之の心に残されたのは充足感だった。
「……んっ」
「起きた? おはよう」
「あっ……おはよう、ございます」
胸元で身じろいだ淳の髪を指先で優しく梳くと、それに気がついた彼が勢いよく顔を上げる。驚きにも似たその表情に、雅之が小さく笑い微笑めば、目の前の顔は徐々に赤く染まっていく。
「大丈夫?」
「は、はい」
眠気も覚めて頭がはっきりとし始めてきたのか。素肌が触れ合う状態であることに、気づいたらしい淳が、ソファから下りようとし始める。
だがそれを片腕で引き止めて、雅之は頭のてっぺんに口付けを落とした。
「こんなことになってから言うのは、順序が逆なんだけど」
「はい?」
「淳くん、僕と付き合わない? 僕どうやら君が好きみたい」
のんびりとした声音、緊張感のあまりないこの雰囲気の中、淳はしばらく固まったように動かなかった。
「あ、やっぱり酷いよね。やることやってから好きみたいなんて、ごめんね。前からそんな気持ちはあったんだけど、実感が湧かなくて」
いまだ動かない淳に、さすがに雅之も心配になってくる。少しだけ身体を起こして、肘掛けに背中をもたれかけながら顔を覗き込んだ。
瞬きも忘れて、固まっているその顔に苦笑いが浮かぶ。
確かにする前に、雅之は自分を好きかどうか淳に確認はした。けれど散々いいように抱いて「好きみたい」は、あまりにも失礼な言葉だったと思い直す。
「みたいってのは良くなかったね、そうじゃなくてホントに君が好きなんだ。最近は毎日保育園に行くのが楽しみでね。希のことも考えるんだけど、君の笑顔を見ると安心するんだ」
「……」
相変わらず固まったまま動かない淳に、さらに苦笑して、雅之は唇に軽く口付ける。そうするとようやく淳が、大きく瞬きをした。
「淳くん、こんなに無防備なままじゃ、いいように考えちゃうよ。嫌って言うならいまだよ」
「いや、嫌じゃないです。好きです。俺、高遠さんがずっと好きでした」
雅之の言葉を訂正するように、淳は早口に大きな声を上げる。
「それはさっきの返事をもらったと思ってもいい?」
「は、はい」
「淳くんって男の人が恋愛対象? いまもちろん付き合ってる人とかいないよね」
「あ、はい。いまはいないです」
小さな声でそう返事をした淳は、顔を俯けてしまう。けれど頬も耳も首筋も赤く染まっていて、それがすべて彼の気持ちを物語っているようにも見えた。
身体を起こし、背に腕を回して抱き寄せると、雅之は目を瞬かせる淳の顎を持ち上げ、なにかを言いかけた唇を塞いだ。
「……ぅんっ」
「じゃぁ今日から淳くんは僕のものだね」
たっぷりと深い口付けを味わい、驚いた表情を浮かべる淳をソファの上で組み敷いて、雅之はまた誘われるように彼の肌に唇を落とした。
「高遠さん」
「雅之」
「……雅之、さん」
訂正された呼び名を照れたように紡ぐ淳に、雅之は頬を緩める。この可愛い子が自分のものなのだという至福は、小さな優越感を遥かに凌ぐ喜びだと感じた。
伸ばされた腕に、応えるように雅之がその身体を抱きしめると、頬を緩めて淳も至極嬉しそうに笑った。
移り恋/end
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