21.初めて向き合う自分の心
世の中で当たり前とされているのは男女のカップルだ。けれど勝利たちのように同性同士のカップルもいる。だが、勝利曰く自分たちのような人間はまだ肩身が狭い、のだという。だから大っぴらに手を繋ぐことも抱きしめることも咎められる。しかし光喜にはその大きな違いがよくわからない。人を好きになることに優劣はないと思うからだ。
けれどごく当たり前な家族の姿を見てふと我に返った。確かにもう半年以上も彼女がいない。これまで恋人のいない期間がほとんどなかった光喜にしてはひどく珍しいことだ。
なぜか急に女の子にドキドキしなくなって、恋する熱量も尽きかけていた。そんなタイミングで久しぶりに会った勝利に心を動かされて、引き合わされるままに小津のことを考えた。
しかしそれは本当に恋――なのだろうか。
吊り橋効果に似たものであるとも感じる。目新しいものに目を奪われているだけなのではないか。しかしこんなにも胸が騒ぐのだから、気の迷いだとは思いたくない。
けれどふいに目の前が真っ白になって、光喜は心が迷子になったような気持ちになった。
「みっちゃん、どうしたの? そんなに難しい顔して」
「えっ? ああ、ごめん。なんかちっちゃいのに重みがあってすごいなぁって思って」
「んふふ、そうねぇ。二人が赤ちゃんの頃を思い出すわ」
小さな顔をのぞき込む眞子は至極嬉しそうで幸せそうだ。ふにふにと柔らかな頬を指先で突きながら眩しそうに目を細める。すると無垢な可愛らしい笑い声と共に腕に抱いた身体がジタバタと手足を動かした。
「悠人くんはみっちゃんの抱っこが好きなのかしら」
「えー、光喜ってパパの素質あるの?」
眞子の言葉に黙々と苺を頬ばっていた瑠衣が振り返る。ニヤニヤとからかうような視線を向けられて光喜は不機嫌をあらわにした。
「がさつな姉さんが母親になれるなら俺にだって」
「俺にだって、なに?」
「……なんでもない」
売り言葉に買い言葉。思わず口走りそうになった言葉を光喜は飲み込んだ。本当に自分が親になれるかどうかはまだわからない。このままの状況であれば、結婚という道にはたどり着かないだろう。
しかしだからと言って安易に同性ならいいのか、と言うとそれも答えが見えない。誰よりも身近な存在だった勝利だから好きになったのかもしれない。小津は一緒にいると気持ちが和むから寄りかかりたくなる。もう少し近づいたらなにかが変わるかもしれないけれど、それは勝利や鶴橋の信用があるからこそ向き合える好意だ。
もしまったく見ず知らずの男に好意を向けられても、おそらく受け入れられない。それらを顧みると自分はバイというわけではないのだという考えに落ち着く。けれどそうなると考えは堂々巡りだ。
結局また複雑な迷路。あまりの先の見えなさに思わず光喜は重たい息を吐いた。
「真面目な顔しちゃってどうしたの? あ、いまの彼女はどんな子なの? もしかして結婚とか考えてたり?」
「……してないよ。それにいまは、いないから」
面白がるような言葉に光喜がぽつりと返事をすると、興味津々な顔で笑っていた瑠衣の顔がきょとんとした表情に変わる。瞬きを忘れたかのようにじっと見つめてくるその視線に光喜は目を伏せた。
「あー、別れたばっかりとか?」
「去年からいないよ」
「え? 去年から? へぇ、あんたにしては珍しいわね。あ、じゃあ好きな子がいて片想いとか? ……ってないか、光喜は女の子受けだけはいいもんね」
「……気になってる人はいる。でもこれからどうしようかと思ってて」
「ん? ほんとに片想い?」
首を傾げる瑠衣の眼差しから光喜が顔をそらすと、笑っていた口がぽかんと開いた。さらに傍にいる眞子まで目をまん丸にして驚いた顔をする。その二つの視線に俯いた光喜の顔がじわじわと赤く染まった。