17.甘やかな声※
微かなラジオからの音が広がる中に光喜の荒い呼気が混じる。いまは本棚にしがみついていないと立っていられないのか、足を震わせながら下を向いていた。それを後ろから見つめて小津は彼の反応を確かめる。
柔らかな彼の孔は二本の指を飲み込んで、たっぷりと注ぎ込んだローションが卑猥な音を立てていた。ぐちゅりと音を響かせるたびに小さな孔はヒクヒクとする。さらに前立腺を優しく撫でれば、小さな喘ぎ声がこぼれてきゅっと指を締めつけた。
「あっ、ぅん、小津、さん。駄目、イっちゃう」
「もう? 今日は早いね」
「んんっ、ほんとに、そん、な、あぁっ、んっ」
トロトロと蜜をこぼす熱を扱いて、指で挟み込むように前立腺をきつく刺激すると手のひらに吐き出されたものが溜まる。俯いて肩で息をする光喜はいつも以上に余裕がなさそうに見えた。けれどそれを感じるほどに小津は気持ちを煽られる。
さらされた首筋にねっとりと舌を這わせると、肩が震えて棚にしがみついている指先に力がこもるのがわかる。声をこらえようと必死になってる様にひどくそそられた。
ティッシュで手を拭い棚に置いていたゴムを掴めば、ちらりとその手に視線が向けられる。けれどそれを悟られたことに気づくと、慌てたように光喜はまた俯く。
「光喜くん、ほんとにこの体勢のままでいいの?」
「いい、して。いつもと違うとドキドキするでしょ」
「確かに、するけど。……きつくなったら言ってね」
「大丈夫、このままして、ぁっ、……っ、んっ」
ゆっくりと反り立った熱を解された孔に押し込むと、はくはくと息をしながら光喜は声をかみ殺す。いつもとは違う場所で、気づかれるかもしれない空間で、息を潜めながら初めての体位で交わるのは彼が言う通り興奮を呼ぶ。
突き上げるたびに切羽詰まった声が漏れ聞こえて、小津のものを包む肉壁はうねるように絡みついた。そして激しく突き上げられるのがいいのか、次第に涙声は甘い声に変わる。どんどんと行為に夢中になっていく光喜はねだる声を上げて身体を震わせた。
「あっあっ、小津さ、ん、もっと、もっとして、気持ちいい」
「光喜くん、声、出ちゃってる」
「あ、やだ、んっ、声、出ちゃう」
「可愛い声を聞かれちゃうよ」
耳の裏を舐めて囁きかければ、首筋を真っ赤にしながらかぶりを振る。けれど懸命に声を噛みしめようとするが、快楽に弱い光喜の口からは甘ったるい声が漏れた。しかしさすがにそのままでは本当に聞かれかねない。
後ろから手を回して小津は手のひらで彼の口を塞いだ。すると押さえつけられた光喜はくぐもった声を上げながら、きゅうきゅうと締めつけてくる。
「んっ、光喜くん。そんなにされると我慢できないよ」
誘い込むような動きに身体が反応してしまう。思わず何度も激しく穿つと口元を押さえる手に唾液が滴る。そしてそっと伸ばされた舌に指先を舐められた。いつも奥を突かれながらキスとすると、絡めた舌が気持ち良くて快感が増すのだと光喜は言っていた。
チロチロと動く舌を指先で撫でるとピクンと肩を跳ね上げて締めつけを強くする。さらに指を口の中へ挿し入れれば、舌を絡めながら吸いついてきた。
水音を立てながら指をしゃぶる光喜の横顔をのぞき込むと、頬を染め潤んだ目でその行為に夢中になっているのがわかる。気を引くように前立腺をこすり上げれば上擦った声を上げて、蕩けたような顔をした。
「んぁっ、んっ、はあ、こづ、さん。……キス、キスしたい」
とろりと唾液の糸を引かせてしゃぶっていた指から口を離すと、身体をひねり光喜は小津を振り返る。甘えるその言葉のままに覆い被さるように口を塞げば、自分から舌を伸ばして絡みついてきた。
「んっ、んっ、小津さん、ぎゅってしたい」
ひとしきり舌を絡め合うと今度はまた縋るような目をしてくる。そうすると溢れんばかりの色香を振りまく彼を貪り尽くしたい気持ちが湧いてくるのだが、あどけない目を見るとそんな欲も押し込められてしまう。
埋めていた熱をゆっくりと引き抜いて優しく身体を引き寄せれば、両手を伸ばして光喜は首元に腕を絡めてきた。
「光喜くん、ベッドに行こう。もうこのままだときついよね」
「うん」
しがみつくようにぴったりと抱きついてくる恋人の背中を優しく叩いて、そのまま身体を抱き上げる。そしてベッドまで行くとそっと下ろしてバスタオルを敷いたそこへ座らせた。
「小津さんも用意周到だね」
「うん、正直言えば期待してドキドキしてた」
「んふふ、嬉しい」
綻んだ笑顔を見せる光喜にぽっと小津の心に温かい熱が灯る。いつもは彼の艶めかしい姿態に煽られて激しくしてしまうが、今日ばかりはたっぷりと甘やかしたくなった。弧を描く唇にやんわりと口づければ、目を瞬かせて小さく首を傾げる。そのなにげない仕草が可愛らしく、小津は目尻や頬にキスを降らせた。
「んっ、くすぐったい」
「光喜くん、可愛いね」
「どうしたの小津さん。いつもみたいにしてもいいよ?」
「そうしたら声、出ちゃうよね。今日はゆっくりしよう」
「え? ……なんか、変にドキドキするんだけど」
笑みを浮かべた小津に光喜は頬を赤らめながら視線をさ迷わせる。けれどTシャツの裾から手を挿し入れれば、潤んだ瞳を持ち上げた。さらに手を這わせ、肌を撫でていくと羞恥を孕み始めた瞳が揺れ、あらわになっている彼の熱が反応するようにビクビクと震えた。