首に回された宏武の腕に、きつく抱き寄せられる。それと共に繋がりも深くなり、甘く上擦った声が耳に響いた。
その声に誘われるままに腰を動かせば、そこは少しきついくらいに俺のものを締めつけてくる。
それだけで吐き出してしまいそうになるけれど、まだこの身体を味わっていたくて、その波を押し止めた。
「宏武、こっち見て」
「ぁっ、リュウっ」
ボロボロと涙をこぼす宏武は、俺の声にぎゅっと閉じていた瞳を開く。濡れた黒い瞳はいつものような熱っぽさはなく、それどころか羞恥にうち震えている。
はくはくと息をする唇が震えて、俺の名前を紡ぐと、縋るように口づけられた。
唇が触れるだけのぶつかるような口づけ。それがまた俺の中にあるなにかをぷつりと焼き切る。
貪り尽くすみたいに激しく揺さぶれば、泣き声みたいな喘ぎ声が上がった。それがひどく可愛くて、さらにねだるように突き上げる。
「あっぁっ、んっ、リュウっ、こわ、れちゃう」
「やめる?」
「や、いや、駄目」
「気持ちいい?」
耳元に囁くように息を吹き込めば、何度も頷きながら肩を震わせた。そして声にならない言葉を表すみたいに、宏武の中はうねる。
それにはさすがに我慢しきれず、何度目かわからない欲を注ぎ込んでしまった。
「宏武、大丈夫?」
しがみついていた腕が解けて、身体がシーツの上に横たわる。埋めていた熱を引き抜けば、その身体はひくりと震えて、力尽きたみたいに動かなくなった。
心配になって、顔をのぞき込むように身体を寄せると、閉じられていたまぶたがゆっくりと持ち上がる。
「リュウ」
「ん?」
「好き」
真っ黒い瞳が俺を映し込んで、ぽつりと小さな言葉を呟く。たったそれだけの言葉が、やけに胸に響いてきて、鷲掴まれたみたいに苦しくなる。
やんわりと笑みを浮かべた顔が愛おしくなって、なぜだか急に泣けてきた。
「リュウ?」
俺を見つめた目が見開かれる。そしてまっすぐに手を伸ばされた。触れた手に頬を撫でられて、初めて自分が涙をこぼしていることに気がつく。
そうすると、込み上がってきたものが止まらなくて、頬に触れる手を掴み、うずくまるように身体を折った。
「宏武」
「リュウ? どうしたんだ?」
「好き、好きだよ。宏武が好きだ」
掴んだ手を抱き込んで、繰り返し囁いた。何度も何度も繰り返して、その言葉が胸に染み込んでくる。
どうしてこんなに愛おしいのだろう。どうしてこんなに胸が苦しくなるんだ。こんな感情いままで知らなかった。
好きの気持ちが溢れるほどに苦しくなる。
心がカラカラに渇いてしまいそうになって、縋りつくように目の前の身体を抱きしめた。
「宏武、宏武、俺だけのものでいて」
結局は宏武の気持ちよりも、自分の気持ちのほうが大きすぎて、それに押しつぶされそうになる。
初めて出会った時から心を動かされた。
あんなに悲しくて、寂しくてたまらなかったのに、宏武を一目見た時から惹き寄せられて、隙間が埋められていくような気持ちになった。
俺のために立ち止まる人は、誰もいなかった。それなのにたった一人。宏武だけが立ち止まってくれた。
俺のために手を差し伸べてくれた。それだけで俺は救われたんだ。
「もう、リュウだけのものだよ。ずっと、出会った時からずっと、リュウのことしか見えてないんだ」
「宏武、俺は」
「リュウはいまのままでいい。いまのまま愛して。それだけで自分が変われる気がするんだ。全部がリュウで満たされる気がする」
背中に腕を回されて、抱きしめ返してくれる宏武の優しさにますます涙がこぼれた。唯一のものを求めようとする俺に対して、彼はすべての俺を受け止めようとしてくれる。
自分の器の小ささを感じて、それがひどく嫌になる。
どうして自分には同じことができないのだろう。
いまも未来も、過去さえ欲しいと願うなら、どんな宏武でも受け止めてあげるべきではないのか。どんな宏武でも愛してあげるべきだろう。
変わることを求めるなんて、俺はなんて傲慢なのだ。
「ごめん宏武」
「なぜ謝るんだ」
「俺は理想ばかりを宏武に押しつけている」
「いまのリュウのままでいいって言っただろ。それに初めての気持ちで、リュウに触れてもらえたのは嬉しかった。いつもよりずっとドキドキしたし、いつもよりずっと、その、なんていうか、感じたし、気持ち、よかった」
胸元に顔を埋めて、小さく呟いた宏武の言葉に、心臓が大きく跳ね上がった気がする。どんどんと早まる鼓動と熱くなる頬。
抱きしめる手さえも震えた気がして、思わず深呼吸を繰り返してしまう。そうして先ほどの言葉を、何度も心の中で再生する。
「リュ、リュウ? なにか言ってくれよ」
不安げな声に我に返ると、窺うような眼差しが俺を見上げている。不安をいっぱいためたその視線を、まっすぐと見つめ返して、気づけば惹き寄せられるように口づけをしていた。
両手で頬を包みながら、たっぷりと唇を味わう。
うっとり細められた瞳を見つめたまま、何度も深く唇を合わせた。小さな声が漏れ聞こえるのが心地よくて、ねだるように舌先に吸い付く。
「んっ、リュウ」
「宏武、ねぇ、もう一回、してもいい?」
「はぁっ、ぁっ、さっきみたいに、して」
「初めてみたいに?」
恥じらいを浮かべた瞳で、小さく頷かれたら、嫌って言うほど甘やかしたくなる。そっと身体をシーツの上に横たえて、最初からやり直すみたいに身体中にキスをした。
それだけで宏武の熱は涙をこぼすけれど、俺のものでドロドロになった蕾さえも、優しく丁寧に開いていく。
胸の尖りを舐めしゃぶり、白い肌に紅い花を散らす。時折甘噛みするように首筋を噛んであげると、熱い息と共に甘ったるい声が上がった。
「ぁっ、リュウ、どうしよう」
「ん?」
「こんなに、気持ちいいの、初めてで……おかしく、なりそう」
「いいよ。もっと感じて」
熱を持て余す宏武は腰をくねらせるけれど、その清純さを含む色気に当てられて、ペースを狂わされる。
いつもだったら色香に飲み込まれて、すぐに暴走してしまうのに、可愛らしく喘ぐ宏武にかしずく下僕になったような気分。
足先まで丹念に舐めて、一つ一つ宏武に触れることを願い請うてしまう。
「キスしていい?」
「して、もっとして」
舌足らずな甘えた声を漏らす、宏武は赤い舌をちらつかせながら、俺を指先で引き寄せる。
女王さまのおねだりに誘われるままキスをして、砂糖菓子のように甘そうな舌に、やんわりと歯を立てた。
それだけの刺激でもたまらないのか、ひくりと身体を震わせて宏武は波に飲み込まれる。
溺れるように口づけをして、口元が汚れてベタベタになる頃には、とろんとした瞳で俺を見上げてきた。
その目は熱に溺れているけれど、普段見せるような妖艶さはない。そっと鼻先を寄せると、花が綻ぶみたいな笑みを浮かべた。
「なんだか俺、ひどくいけないことをしてる気分」
「あっ、ぁっ、んんっ、リュウ、奥が、むずむずする」
「欲しくなってきた? 俺もすごく宏武が欲しい」
身体は成熟した色気があるのに、仕草は幼さを感じさせる初々しさがあった。俺の言葉にこくんと頷いた宏武は、その先をねだるみたいに見つめてくる。
従順なその反応に、思わず口の端が上がってしまう。
にやつく自分に呆れてしまうが、高揚する気分は抑えられない。
両脚を抱え上げれば、ぽってりと膨らんだ蕾があらわになる。そこに凶器とも言えそうな、筋が浮き立った熱を押し込む。
ゆっくりと少しずつ広がっていく、そこを見ているだけで息が荒くなっていく。
「はぁっ、宏武の中、熱い」
「んぅっ、リュ、ウ、いつも、より、大きい」
「宏武、いまそういうこと言わないで」
危うくその言葉だけでイキそうになった。腹の底に力を込めてそれを逃すと、少し咎めるように宏武を見下ろす。
するとその視線に涙を浮かべた目で、またとんでもないことを言い出した。
「いいよ、好きにして。リュウの好きにして」
「……っ、後悔しても知らないから」
「あぁっ! あっんっ」
ギリギリまで引き抜いたものを、勢い任せにまた奥まで押し込む。それは最奥までぶち当たったのか、宏武はそれだけでイってしまった。
中が危ういほどに痙攣して、内壁がぐにぐにと波打ちながら、俺のものを刺激してくる。
それに一気に持って行かれそうになったが、紛らすように腰を掴んで何度も奥へ熱を打ち付けた。
ビクンビクンと跳ねる身体は、またイキっぱなしになっているのか、開いた口から唾液がこぼれ落ちる。
頬を上気させて惚ける顔がたまらない。快感に浸って少しうつろになっているのに、与える刺激には何度でも身体を震わせる。
「……ぁっ、ぁんっ、ん、リュウ、気持ち、いい」
「俺も気持ちいいよ」
「もう、変に、んっ、なる」
「宏武、すごく可愛い。もっと見せて。うんと気持ちよくさせてあげるから」
締まらなくなった口から、次々とこぼれ出てくる喘ぎ声が甘くて、可愛い。シーツにしがみついて、快感にうち震えている姿に、ますます息が荒くなる。
追い詰めるように腰を動かせば、縋るような目が向けられる。そしてまっすぐに腕が伸ばされて、俺を引き寄せようと指先が腕をかすめた。
「宏武、おいで」
伸ばされた腕に、応えるように両腕を広げ、横たわる身体を胸元に抱き寄せる。きつく抱きしめれば、しがみつくように首元に腕を回されて、耳に甘い声が吹き込まれた。
「宏武もっと声出して、その声たまんない」
下から突き上げるたびに切羽詰まった声が上がり、その声にさらに律動を早めてしまう。
繋がった部分からはぐちゃぐちゃと粘る音が聞こえ、それがまたお互いの興奮を煽る。
「ぁっ……ん、あっんっ、リュウ、リュウ、もう、駄目」
「いいよ。イキな。俺も中にたっぷり出してあげるから」
快感を追うように、腰を揺らめかせ始めた宏武に律動を合わせると、すぐに身体は高みへと上っていく。それに引きずられるように、俺も溶けそうなほど熱い中にすべてを吐き出した。
「気持ちよかった?」
肩で息をしながら、俺にしがみつく身体をぎゅっと強く抱きしめる。こうして余韻を二人で分かち合うのは、初めてかもしれない。
いつも好き放題に抱き潰してばかりで、こんな風に抱きしめ合ったこともなかった。
「宏武、キスしよう」
泣きすぎて真っ赤になった目に、笑みが浮かんでしまう。まぶたにキスをして、頬にキスをして、待ち望む唇にキスをする。
遠慮がちに差し伸ばされる舌に絡みつけば、気持ちよさそうに目を閉じた。
初めて感じる胸の甘い疼き。それに酔いしれるように、何度も口づけを交わした。
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