二人の体温が混ざり合う
熱のこもった口づけを受け入れながら、興奮の色を見せるデイルの瞳にユーリは見惚れる。
少し前の急いた感じが戻ってきたのだろうか。
デイルの愛撫が衝動的になってきた。しかし逆に求められている感じがして、ユーリは気分が良くなる。
二人で息を乱し、早く――早く繋がりたい、一つになりたいとユーリは両脚を開き、デイルは秘部に昂ぶりを擦りつけてきた。
「挿れて、奥に、ディー、早く――っ」
ぐっと先端を押し込まれただけで圧迫感がすごい。
息が詰まり、声が出せないけれど、ユーリはデイルがためらわないよう、手を伸ばし彼をかき抱く。
「ユーリさまっ」
「はっ、ぁ、あぁっ」
さらに押し入られれば、デイルのモノは腹の中で形がわかりそうなほど、主張を感じさせる。
確かにこれは初めて挿れるには大きすぎる。
そんな考えをよぎらせながらも、ゆっくりと律動を始めた彼の熱に、ユーリはぶるりと体が震えるほどの快感を覚えた。
頬が紅潮して熱く、興奮で涙が浮かぶ。
デイルから与えられる快楽に、腰をくねらせ甘く啼くと、ますます彼は興奮を見せながらユーリを貪る。
香油が注ぎ足されて、デイルの昂ぶりが抽挿されるたび、淫靡な音が鳴った。
「ああ、ユーリさま。なんて狭くて、気持ちがいいんだ。んっ、そんなに締めつけないで」
「仕方が、ないだろう。僕だって、気持ちいいんだ」
「はあ、可愛らしい。快感に濡れたあなたの瞳がたまらない」
「んぁっ、あっぁっ、いいっ、駄目、そこ――」
「駄目なら、やめますか?」
「い、意地悪を、言うなっ、わかっているくせに」
「可愛い、私のユーリ。もっと良くなってください」
両脚を掴み、内腿に口づけるデイルはうっとりと呟き、ユーリの腰をぐっと引き寄せる。
奥まで当たった先端でぐりぐりと内壁を撫でられ、ユーリは目の前で火花が散った感覚を覚えた。
「ひぅっ、あぁ、んっ、やっ、はげしっ、い」
立て続けに腰を使われ、ゴツゴツとデイルの昂ぶりが最奥に当たれば、そのままさらに内側へ入り込んでしまいそうだった。
怖くなり、ぎゅっとデイルの腕を掴むと、身を屈めた彼に優しく口づけられる。
「あぁっ、いい、ユーリさま。あなたをずっと味わっていたい」
「ディー、ディーっ、あ、だめ、もう……もうっ、あ――っ」
獣みたいな激しさで追い詰められて、ユーリは驚くほど早く達してしまった。
ビクビクと体を震わせ、無意識にデイルの子種を搾り取ろうとするように奥が締まる。
彼はまだ達する気がなかったらしいけれど、ユーリに負けたのか低い呻き声を上げて、中へと吐き出した。
お互い達すると荒い息づかいだけが空間に満ちる。
「すご、かった」
「大丈夫ですか? すみません。無理をさせましたね」
「なにを、言ってるんだ。僕は全然、足りない。ディーはもっと僕を味わいたいんだろう?」
「えっ、ユーリ、さまっ?」
そそくさと終わりにしようとするデイルを捕まえて、ユーリは彼をベッドに押し倒す。
そして驚きに目を見開くデイルへ、にっこりと笑みを向け「二人の時間はこれからだ」と言いながら、ピクンと反応を見せた素直な昂ぶりを撫でた。
「ディーの体も物足りなさそう」
「……騎士の体力を甘く見ないでください」
「じゃあ、僕をディーで満たして――全部、食べてくれていいから」
「はあ、可愛らしくて困りますね。あとで文句を言わないでくださいね」
「言わない」
体に乗り上がっていたユーリの腰を撫で、デイルはそのままユーリを導こうとするが。
「待って、この体勢はなんかやだ」
「……わかりました。では、こうしましょう」
「あ、うん」
ユーリの拒否に嫌な顔もせず、体を起こしたデイルはユーリを自身の膝の上に座らせる。
向かい合う状態でユーリは無意識にほっとした。
お互いの位置は逆だけれど、未来での閨の行為を思い出してしまったのだ。
上に乗られて、好き勝手にされたのが、嫌で仕方なかった。
「いいな、この体勢。ディーをたくさん抱きしめられる」
「口づけもしやすいですよ」
腕を伸ばしてデイルの首に回せば、彼はユーリを引き寄せて唇を重ねる。
口の中を愛撫されて、再び体の熱が高まると、見計らっていたのかデイルの昂ぶりが尻の割れ目に擦りつけられた。
「挿れて、ディー。またいっぱい、中を突いて」
「いやらしくて、とても可愛いです」
「ふ、ぁあっ、さっきと、違うとこに、くるっ」
串刺しにされるかのような状態。どんどんと奥へ入り込んでくるデイルのモノを感じて、ユーリは顎をのけ反らせて、ビクンビクンと体を震わせた。
「もう、達してしまわれたんですか?」
「やっ、そのまま続けて、気持ちいいの、続いてる」
挿れただけで達してしまったユーリに、デイルは慌てて腰を引こうとしたけれど、逃がすまいとユーリは彼に抱きつく。
「大丈夫ですか?」
「平気だ、もっと、ディーが欲しい」
「辛くなったらちゃんと言ってくださいね。私はユーリさまが思う以上に、あなたを求めています」
「ふふっ、嬉しい――ぁっ」
デイルの想いのこもった言葉が本当に嬉しくて、ユーリは彼の首筋に頬をすり寄せるけれど、些細な仕草でどうやら箍を外してしまったらしい。
両手で尻を掴まれ、先ほどより立派になった昂ぶりで何度も突き上げられる。
衝撃で体が跳ね上がってしまいそうになるけれど、すぐさま引き戻され、奥までねじ込まれた。
さらに何度も奥を突かれれば、ユーリは嬌声を上げるしかできなくなる。
「すごっ……いっ、ぁ、奥、奥、ディーっ、入っちゃう。やっ――っ」
ぐぷりと音が聞こえてきそうな感覚。行き止まりをこじ開けて入り込んできたデイルは、そこで子種をまき散らす。
声にならない声を上げてユーリはその熱を感じていた。
「くっ、たまらない。ユーリさま、もっとあなたを食らってもいいですか?」
「はっ、はっぁあっ、いい、許す、からっ、全部、ディーのものに――ひぅっ」
最奥からぐぽりと引き抜かれ、一瞬のうちにユーリは再び達してしまった。
息が荒くなり、大きく呼吸を繰り返していると、デイルは頬やまぶたに口づけて落ち着かせてくれる。
きっとすぐにでも動きたいだろうに、ユーリのために衝動を抑えようとしているのだ。
「辛いですか? 泣かないで」
「あっ、違、う……ふぅっ、んっ、気持ちが良くて、たまらない。ディー、好き」
触れた唇がいつもより熱かった。優しくしようと一生懸命なのが伝わる。
舌を絡めてお互いに貪り合えば、デイルはゆっくりと律動を再開した。
結合部分では香油とデイルの吐き出した子種が混ざり合い、ぐちゅぐちゅと音が響く。
そこにユーリの手が、足が乱す、シーツの衣擦れの音が混じった。
「ディー、愛してる。あなただけだ。あなた以外ほしくない」
「私も愛しています、ユーリ。あなたはなににも代えられない存在です」
結局、二人は夜が更けるまで抱き合った。
出すものを出し尽くし、もう一滴もこぼれ落ちてこないだろうと思えたほどだ。
けれど――
「ユーリさま? 体が辛いのでは?」
「ぁっ、やだ――抜くな」
「朝までこのままでいるつもりですか?」
「抜いたら、腹が寂しい」
「私をケダモノにするのがお上手ですね。でも駄目ですよ。今日限りというわけではないでしょう?」
「んぁっ、やだ」
後ろから抱き込まれた状態で繋がっていたが、呆れたデイルの声とともに引き抜かれてしまった。
出すものは出し切ったが、緩く中をこすられているだけでも気持ちが良く、ユーリは甘く達している状態が続いている。
いままで満たしていたモノがなくなり、非難の目を背後のデイルへ向けた。
「酷い、ディー、意地悪だ」
「私を生殺しにしようとするユーリさまのほうが酷いです」
「ゆっくりなら、平気だ」
「無理です、私が。あなたを腕に抱いていて、衝動的になるな、だなんてあんまりです」
「ディーは鍛えすぎて体力がつきすぎたんじゃ」
昼のお茶会の時間以降から、夜が更けるまで自分を抱いていたのに、まだ頑張る余力があるのかとユーリは目を瞬かせる。
ごろりと寝返りを打ち、正面からデイルを見つめると、わずかに拗ねた表情になった。
「ユーリさまが可愛らしすぎるからいけないんです」
「責任を押しつけられた。でも、またしてくれるなら今日はもう許してやる」
甘えてぎゅっと大きな体を抱きしめたら、諦めのため息を吐かれた。
それでもデイルは黙って抱きしめ返してくれたので、ユーリは彼の胸元にすり寄る。
随分と前、一緒のベッドで寝た時も抱きしめ合ったが、あの頃よりもずっと逞しくなっているのがわかった。
当時は緊張していたデイルも、いまでは当たり前のようにユーリを腕に抱いている。
「ディー、どこへも行かないでくれ」
「はい、善処します」
「……まったく、仕方のないやつだ」
正直者すぎて困ったものだ。しかしその場を取り繕うためでも、嘘を言葉にしないデイルは信用できる、とも言える。
少々憎たらしいが、何倍も愛おしいので、ユーリは両手を伸ばしデイルの頬を撫でた。
すると彼は黙って身を屈め、ユーリの額に唇を落とす。
「愛しています、ユーリさま」
「僕もだよ、ディー」
ひとまずは長年離れ離れになっていた自分たちが、無事に隣り合って生きていける。
それだけでも十分だと思えた。
「本来の僕は、どこかで命を落とす定めだったのだろうか」
「……そうかもしれません」
「ならばデイルの執拗さに時の神も折れてくれたのだな」
「執拗さとは失礼な。想いの大きさ、恋情の強さと言ってください」
怒った口ぶりで鼻先に齧り付かれたけれど、くすぐったいだけだった。
ふふっとユーリが笑えば、デイルもつられて笑う。
ユーリたちが繰り返したという、時戻りの現象を正しく知るのは無理な話だ。
人の領域で計るには大きすぎる出来事である。
そもそもドラゴンという存在でさえ、想像の生き物と思われており、誰彼無しに語っても信じてもらえないだろう。
だがそれでいい。大きすぎる存在は拠り所になるのと同時に、依存にもなり得る。
(叔父上は大きな力に依存して、人の道を外れてしまったのだろうな)
表向きミハエルは病死と発表されている。
時期的に流行病に倒れたと憶測され、民の多くは涙した。表向きには本当に彼は善人だったのだ。
もしかしたら本当のミハエルは、もっとまっすぐな人だったのかもしれない。
(何度でも失敗をやり直せると知り、欲望に溺れてしまったのだろうな。未来では母上を失ったのが、最大の失敗だったのかも)
それまではきっと順調だったのだろう。だからこそ未来の出来事をなぞり、次の成功を目指していた。
彼にとって世界は遊戯盤、人はまさしく駒だったのだ。
「ユーリさま、私の腕の中でほかの男のこと、考えていませんか?」
「えっ? ――んふふ、嫉妬か? 可愛いな、ディーは」
ぼんやりとユーリが考え込んでいたら、急に体を強く抱き寄せられた。
一瞬おどろいたが、デイルの言葉で意味を悟る。あまりの愛おしさにユーリが笑いながら、彼の唇を指先でつつくと、不満をあらわにしツンと尖った。
「私は執念深く嫉妬深い男なのです」
「奇遇だな、実は僕もだ。デイル、よそ見をしたら酷い目に遭うからな」
「私がするとでも?」
「……必要のない、忠告だったな」
(ディーが僕の生を何度も望んだから、いまがある。心から愛してくれている証拠だ)
自身の魂を投げ打つほど愛してくれたデイル。
彼の手を離さないでいよう――ユーリはそう強く心に誓う。
(また無茶をしたら大変だ)
「ユーリさま、今度はなにか失礼な考え、していませんか?」
「ディーが世界中で一番、愛おしいと考えていただけだ」
「あなたに愛されているいまが、私の喜びです」
再び顔を見合わせて笑い、二人はお互いを抱きしめ、いまはなにも考えず眠りにつこうと目を閉じた。