コンビニで出会った頃はまだ寒くて冬を感じていたけれど、いつの間にか花が芽吹いて桜色の春になっていた。春は様々なはじまりの季節でもあり、俺たちにも新しいはじまりはやって来る。
三軒隣、すぐ傍で暮らしていたが、平日も休日も互いの家に入り浸ることが増えて、手っ取り早く引っ越しをすることにしたのだ。以前のアパートからさほど離れていないけれど、最寄り駅もコンビニも近くなった。
そしてなにより広い。2LDKの賃貸マンションは、1Kで暮らしていた身からするとかなり贅沢な感じ。でも家賃は折半しても前のアパートより安い。
「笠原さん、荷物こっちに混じってましたよ」
「ん? ああ、そうなんだ。悪い」
部屋は一人一部屋。寝室を一緒になんてことはしていない。生活時間の差があるのであえてだ。一緒に寝たくなったら潜り込めばいいだけの話だしな。
「冬悟さん、荷物は片付いた?」
「だいぶ片付きましたよ」
「俺、そろそろ腹減ったかも」
「もういい時間ですね」
壁掛けの時計に視線を向けると十三時を少し過ぎている。午前中から引っ越し作業をしていたので腹はペコペコだ。
「
「もう帰ってきても良さそうですけどね」
光喜が買い物へ行くと出て行ったのは四十分くらい前だ。しかし二人で顔を見合わせると示し合わせたように部屋の中にチャイムが鳴り響いた。急かすように連続でチャイムが鳴って、冬悟が慌てたようにリビングのほうへに駆けていく。そのあとをのんびりついて行けば、玄関から賑やかな声が聞こえてきた。
「ただいまぁ! ねぇ、
「外? 飯買ってきたんだろう、早く寄こせ。腹減ってしょうがないって、手ぶらかよ」
「えー、マンション裏の土手ですごい桜が咲いてたよ。あ、ご飯は
両手を空けて帰ってきた光喜が後ろを振り返ると、背後からのそりと大柄な人がリビングへやってくる。一見すると熊のような見た目だが、性格はとても温厚。彼は冬悟の親しい友人――小津修平、三十歳。
引っ越しの手伝いにやってきた、と言うのは口実で、実は光喜に気があって最近ちょくちょく顔を見せる。
「遅いと思ったら寄り道してたのかよ」
「だってすっごい綺麗だったんだよ。ねー、小津さん」
「あ、はい。すごく大きな木があって見事でしたね。あ、お弁当、これで良かったかな?」
片手に弁当四人分と、もう片方にビールが一ダース。光喜のやつ本当に荷物を全部持たせたんだな。まあ、小津さん人が好いし、光喜にいいところ見せたいんだろうし、いいか。
本当のところはそこまで本気で紹介をしたわけではないのだが、思いほかぞっこんになってしまった。ただし光喜はそのことをまだ知らない。
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