酔っ払って完全に落ちてる光喜にため息が出るが、ひとまず桜見物はお開きにしてマンションに引き上げるのが得策だろう。冬悟と顔を見合わせて苦笑いをすると、空き缶をまとめてビニール袋に突っ込んだ。
行きと比べて軽くなった缶は二人で手分けをすればなんてことはない。一番大きな荷物である光喜は小津が背負ってくれた。背丈もかなりある成人男性を一人持ち帰るのは至難の業だが、それよりも二回りは大きい小津には大した重量ではないようだ。
「けっこう話が盛り上がってたみたいだけど、なんの話してたの?」
「ああ、僕の実家の話を。散歩している大きな犬がいて、大きな犬を飼いたかったんだって光喜くんが。それでうちの実家は大型犬が四頭もいるんだって話になって」
「ふぅん、なるほど。光喜んちは母親が動物嫌いなんだよな」
「うん、だから今度みんなで遊びに来て」
「光喜だけ誘えばいいのに」
「いやぁ、さすがにそれは無理かなって」
照れくさそうに笑う小津に思わず肩をすくめてしまう。実家に誘うのはさすがに気が引けるだろうが、デートとか自宅とかもう少し積極的に行かないと進展できない。この調子じゃ付き合うまでにだいぶ時間がかかりそうだ。いまでもかなり気を許してるみたいだし、もっと押していっても大丈夫だと思うんだけどな。
「あ、笠原さん、なにか食べるもの買って帰りますか?」
ふいに立ち止まった冬悟が道の先を指さす。その方向には俺がバイトしているコンビニがある。
「ああ、うん。なんかつるっと食べられるものがいい、蕎麦とか、うどんとか、冷たいの」
「わかりました。じゃあ、ちょっと買ってきます」
「あ、冬悟さん。空き缶、預かるよ」
引っ越しをしてマンションからコンビニまで徒歩五分とかからなくなった。しかし通うのがかなり楽になったのはいいけれど、二人で暮らしているのをいつか絶対バイト仲間とかにバレそうだ。
まあ、でもそのうち人に話さなくちゃいけない時は出てくるよな。今回の引っ越しを親に話した時はかなり濁した感じになってしまったから、そのうち腹をくくって話そうと思う。
マンションに着くと窓からは夕日が差し込んでいた。いままではアパートの二階からの景色だったが、四階のベランダから見える景色は随分と広く感じる。ちょっとしみじみと今日から二人暮らしなんだなって気分になった。
しかし光喜がいたら冬悟は絶対させてくれないよな。そこだけがちょっと不満だ。
「小津さんお疲れさま。光喜は俺の部屋に寝かしておいていいよ。あ、小津さんも泊まっていく? ソファしかないけど」
「いや、僕は帰るよ。二人でゆっくりしたいだろう」
「うん、まあ、そうかな」
ついでに光喜を持ち帰ってくれたら万々歳なんだけどな。しかしさすがにそこまでの度胸は小津にはないか。告白するのもいつになることやら。まあ、気長に見守るか。
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