胸に咲いた花を枯らさないために

 ずっと一緒にいるためにできることはなんだろう。ただ好きだ好きだと言っていても、ちっとも現実的じゃない。想い合うことはなによりも一番だけれど、もっと先を見据えて考えるべきだ。

「冬悟さん、俺さ。親に自分のことをちゃんと話しておこうと思うんだ」

 曖昧なまま濁し続けることもできる。だけどこれから先もずっと一緒にいるなら、言っておかなければいけない気がする。それで親との関係にひびが入っても、天秤にかけたら冬悟のほうが大事だ。
 まだ大人になりきれていない俺が、将来を約束するなんて格好いいこと言っても様にならないけれど。それでもこの先の未来、冬悟の手を離すことは考えられない。

「冬悟さんには迷惑かけないようにするから」

「笠原さん」

「ん? なに?」

「今度の週末、お母さんが来るそうです」

「……え?」

 俯きがちになっていた顔を持ち上げると、冬悟がやんわりと笑みを浮かべた。けれど思わぬ言葉に俺は驚きで口をぽかんと開いてしまう。瞬きを忘れて固まっていると、両手をぎゅっと握られた。

「お母さんに、自分に言いたいことがあれば話を聞くから、考えておいて欲しいと言われました」

「え? 待って! それいつの話?」

「昨日、笠原さんがお風呂に入っている時に電話がありました」

「あ、あの人……俺がいない時を見計らったな。なんで冬悟さんに言うんだよ」

 そりゃあ、冬悟のほうが年上だし、大人だし、見た目めちゃくちゃしっかりしてそうだし、実際そうだけど。だけど責任は冬悟にあるみたいな対応は納得いかない。これは俺の問題であり、二人の問題でもある。

「ちょっと文句言う」

「えっ? 駄目ですよこんな朝早くに」

 ポケットから携帯電話を取り出すと冬悟は慌てて俺の手を掴んだ。しかしその手を解いて俺はすぐさま実家に電話をかける。しばらく呼び出し音が聞こえて、数分も経たずに電話は繋がった。

「はい、笠原です」

「母さんっ!」

「あら、マサトシ。こんなに早い時間にどうしたの?」

「どうしたのじゃない! なんで冬悟さんにだけ言うんだよ! なんで俺に言わないの? こそこそしないではっきり俺に聞けよ!」

 いきなりまくし立てるようにしゃべり出した俺の勢いに驚いたのか、母親は口をつぐむ。けれどしばらく間が開いて、小さなため息が聞こえた。それでも返事を待っていると、ようやく言葉が返ってくる。

「冬悟さん、ね。前は鶴橋さんって言ってたのに」

「いっ、いまそれはどうでもいいだろう」

「良くないでしょう。大事なことよ。……あんたはそんなに怒るくらい、鶴橋さんが好きなの?」

「……っ、す、好きだよ。ずっと一緒にいたいって思ってる」

「そう」

 ため息交じりに小さく呟いて、母親はまた黙り込んでしまった。続く沈黙に気持ちがやたらとそわそわする。心構えもないまま打ち明けてしまったから、思っていた以上に不安が募っていく。
 それでも冬悟に手を握りしめられて、大きく息が吸い込めた。

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