あの場で悠長に打開策を考えている余裕はなかった。一分一秒でも衆人環視から逃れたくて、選んだ選択肢は――家に帰る、だ。二人を引っ掴んで急いでその場を立ち去った。
このままでは無駄に爽やかな煌めき王子がなにをするかわからないし、普段沸点の低そうな鶴橋がぐらぐらに煮立つのも目に見えてわかった。
電車の中で常識というものを教えるために懇々と説教をしたが、光喜はふくれっ面をするし、鶴橋は納得のいかないって顔をする。
「二人とも、見た目が目立つことをまず自覚しろ」
そもそもこの二人、まったくその辺りが抜け落ちている気がした。自分たちの容姿がどれだけ人目を引いているのかをわかっていない。
いや、わかっていないとかではなくて、もしかしてもう慣れきっているのか。視線が集まるのは当たり前のこと過ぎて気にならなくなっているのかもしれない。くそー、イケメン腹立つ。
「とりあえずそこに二人とも座れ」
スタート地点、アパートまで戻ってくると二人を部屋に上げた。慌ただしくダウンジャケットを脱いでベッドの上に放り投げると、とりあえずコーヒーくらい出してやろうと電子ケトルのスイッチを入れる。
八畳の部屋に男が三人も集まるとさすがに狭さを感じるが、致し方あるまい。
「二人とも、俺が怒ってる意味わかってないだろ」
「いきなりあそこで俺がキス」
「あー、あー、なんだって?」
「ああ、うん。いきなり抱きついたのは謝るよ」
「すみません。騒ぎを大きくしたのは謝ります」
「……なんだ、わかってるじゃないか」
まったくわかっていないのかと思ったら、少なからず思うところはあったようだ。ちんまりと壁際で正座をしている二人に思わず肩をすくめてしまった。
「勝利」
マグカップを三つ、横のテーブルの上に置くと、それを見計らっていた光喜が真剣な顔をして声を上げる。その声に首を傾げながら二人の真向かいに腰を下ろせば、前のめりなくらいの勢いであいだを詰めてきた。
「俺、本気なんだけど」
「あー、今更だけど、とりあえずもうふりをするのはやめよう」
「いまはふりじゃないよ。それはさ、俺がこの人と同じ土俵に立たされるってことだよね」
さらに近づいてこようとする光喜を両手で制すると、ちらりと光喜は隣に視線を向ける。その視線に、黙って聞いていた鶴橋が口を開いた。
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