はじまりの恋

始まり10

 伝えたいことはたくさんある。僕の中にいっぱい詰まった優哉への気持ち。四年半分の想いはきっとすべて伝えるには時間が必要だ。でもこれから先、優哉はずっと隣にいてくれる。 そう思うと傍にいる限り伝えていけるのだと、なんだか幸せな気持ちになれた。…

始まり09

 佐樹さんの長湯は相変わらずだねと笑いながら、優哉は最後まで付き合ってくれた。二人で背中を流し合ったり髪を洗ってあげたり、湯船にのんびり浸かって過ごしていると時間はあっという間に過ぎる。 いつものようにうたた寝する僕のうなじに口づけて、小さ…

始まり08

 店を出てから僕の自宅マンション近くに着いたのは二、三十分くらい経った頃だ。道が空いていることもあり、想像以上にスムーズにたどり着いた。三島と話をしながらだったから、体感時間もあっという間だ。「あ、三島。マンションじゃなくて、駅前で下ろして…

始まり07

 片平がおすすめのお店はイタリアンレストランだった。シェフ一人に店員が一人で、テーブル席が四つほどの小さな店だ。長くこの場所で営業しているそうで二十年ほどになるとか。けれど店内は古びた様子もなくとても綺麗だ。 店には先客がひと組いたが、僕た…

始まり06

 こうして優哉を目の前にすると、四年と半年という時間は思っていた以上に長かったのだなと思えた。いつもどこか切なさを感じさせていた瞳は、いまでは強い光を含んでいる。まっすぐで淀みないところは変わらないけれど、前よりもきっと心が成長したのかもし…

始まり05

 人のざわめきがあふれている。そんな広い空港の中を僕はいま足早に歩いていた。片手に握りしめたメモには到着便の便名と到着時刻が書かれている。 飛行機の到着時間が間近に迫り、三人は駐車場に行く前に僕を到着口のあるターミナルで下ろしてくれた。飛行…

始まり04

 走り出した車の中は、途切れることなく賑やかな笑い声と話し声が広がる。今年の春に就職をしてからなんだかんだと三人とも忙しいので、近頃集まるのは週に一度あるかないかのようだ。 今度いつ集まるとか、どこへ出かけるだとか。そんな会話をしている三人…

始まり03

 あれからしばらくみんなで話をして、お茶を飲んでお菓子を食べて過ごした。そしてそのあとは各々の仕事に戻っていった。放課後になってもやることはたくさんある。 小テストを作成したり課題をチェックしたり、そんな細かい作業をしながら仕事をこなしてい…

始まり02

 人を手のひらの上で転がしてしまいそうなところは相変わらずだが、峰岸の教師としての評価は高いと言ってもいいだろう。生徒に人気があるのはもちろん、父兄たちの評判もいい。 顔のよさもそれに含まれているかもしれないけれど、元々スキルが高いので気配…

始まり01

 あれから藤堂は学校へ復帰して、無事に卒業を果たした。休んでいたあいだの分は課題やテストで補ったけれど、それは藤堂にとってあまり難しいことはではなかったようだ。 そして卒業後は慌ただしいくらいすぐに時雨さんの元へと旅立っていった。寂しいと言…

別離34

 ひたすら二人で抱きしめ合って、お互いに腕の中に閉じ込める。それだけで切なさに染められていた心は少しずつ満たされていく。これから残された時間の中で、あふれるくらいに藤堂を心の中に詰め込もう。 いつでも思い出せるように、泣き言なんか言わないよ…

別離33

 どんな時でもひたむきに僕を愛してくれる藤堂。僕のことを誰よりも想ってくれている優しい人。彼は傷つきながらそれでも懸命に負けてしまいそうな自分に抗おうとする。 繊細で弱くて脆いけれど、心の芯にあるものはきっと金剛石のような輝きがあるんじゃな…