はじまりの恋

夏日17

 予想外のメンバーも増えたが、なんとか全員揃い園内に入ることになった。この自然森林公園はかなり広く、アスレチックジムやバーベキュー施設があったり、レンタルサイクルでも回れたりするほどだ。敷地内は木々が多く生えているが大きな湖や、景観を生かし…

夏日16

 車で一時間ほど、電車なら二時間弱だろうか。今日の目的地、自然森林公園に到着した。駐車スペースに車を停めて降りると、入り口付近に写真部の生徒たちの姿が見える。その中の一人、片平が僕らに気がついて走り寄ってきた。「西岡先生おはよう!」「ああ、…

夏日15

 写真部の校外部活動の当日。僕は朝からバタバタと慌ただしく部屋の中を走り回りながら、鞄に荷物を詰めていた。そしてその合間につけっぱなしのテレビのチャンネルを変えて天気予報を探す。今日の天気は快晴、天気が崩れる心配もないようだ。 でも最高気温…

夏日14

 身支度を調えてから藤堂が立つキッチンの前で椅子を引くと、ふいに顔を上げた藤堂が心配そうにこちらを見つめた。急にそれることなく視線が重なり、カウンターに置かれていた新聞を取ろうとした手元が狂う。「佐樹さん身体、辛くない?」「だ、大丈夫だ」「…

夏日13

 抱き上げられていた身体がゆっくりとベッドへ沈んだ。そしてお互いの手を握り合わせ僕を見下ろす藤堂の視線に、息が止まりそうなくらい心臓は忙しなく動いている。けれどまっすぐと向けられている視線から目を離すことは出来なかった。 しばらく見つめ合っ…

夏日12

 のんびりとした食事を終え、二人でキッチンに立ち食器を片付けていると、ふいに藤堂の手が僕の手首を掴んだ。その感触に驚いて振り返れば、藤堂の視線がじっと僕の目を見つめる。その視線に戸惑いながら僕は小さく首を傾げた。「明日、朝早くに帰らなくちゃ…

夏日11

 すっかり日の暮れた景色が窓の向こうを流れていく。そんな様子をなに気なく眺めながら、ほんの少し混雑した電車の中で、僕と藤堂は周りに気づかれないようこっそりと小指を絡ませていた。 密やかなその行為は胸を熱くする。電車の扉に身体を預けて、遠くを…

夏日10

 口づけを交わすたびに胸に想いが降り積もる。そして好きで好きでたまらなくなって、愛おしさに飲み込まれてしまう。触れ合う熱はいくつも心に火を灯していくから、もうきっとこれ以上の想いなんて見つからないと思い知る。 ゆっくりと離れていく藤堂を視線…

夏日09

 静まり返っていた空間に響いた足音はそれほど大きなものではなかったけれど、僕の心臓を跳ね上げさせるには十分なものだった。慌てて目の前の藤堂を押し離し、僕はその音に耳を澄ませた。ゆっくりと近づいてきたそれは、想像した通り職員室の前で止まる。開…

夏日08

 繋がれた手と藤堂の顔を交互に見つめ、僕はもの言いたげに手を引っ張った。けれど揺すっても、振り回しても繋がれた手は離れていかなくて、思わずがっくりと肩を落としてしまう。 そんな僕を見つめる藤堂はやんわりと微笑みを浮かべるばかりだ。「離れたく…

夏日07

 僕が油断をし過ぎているのも確かで、隙があり過ぎるのも確かだ。でもこうも容易く弄ばれると、色んな意味でへこまずにはいられなくなる。そしてそのたびになんと言って藤堂に謝ればいいのかわからなくて、どん底まで落ち込んでいく自分がいる。 あれからし…

夏日06

 ぽかんと口を開けたままの僕を見て、峰岸はひどく楽しげな笑みを浮かべている。「でもなんでだ?」 藤堂に告白する前に渉さんを呼び出した、それは事実。けれどあの時、そんなに人が大来するような場所に渉さんを呼び出した覚えはない。というよりも逆に、…