はじまりの恋

邂逅13

 我に返った僕は慌てて建物内へ戻り、生徒の受付口へ走った。そしてあまりにも必死な形相で現れた僕に、受付をしていた同僚の女性たちは目を丸くしてこちらを見つめ返す。「西岡先生? どうしたんですか」「い、いま」 息が上がって言葉がうまく話せない。…

邂逅12

 けれどまた、不思議な巡り合わせで彼と出会った。彼を想うとそれと共に彼女の記憶が甦って来た。似たところなどない二人だったが、あの日の出来事と彼が密接な関係だったからだ。そしてあの日のことを思い出してしまえば、雪の降った夜に僕が追いかけたのは…

邂逅11

 僕の視線に振り向いた彼は、戸惑う僕を労るように優しく笑う。でもぽつりぽつりと語る声はどこか寂しげで、彼の心を思うと喉の奥がひりひりと熱くなってくる。子供らしくない愁いを含む眼差しは、背伸びをしているわけでも、元から持っているわけでもない。…

邂逅10

 ポツリポツリと小さな雨粒が頬へ落ち、僕はその冷たさに目を瞬かせた。気づくと僕は、道路の真ん中で一人立ち尽くしていた。行き交う車の流れは速く、どうやってここへ来たのかさえわからない。真っ暗な空の下、煌々と灯る光の渦に飲み込まれ、身体がふわり…

邂逅09

 あの日は朝からひどい雨だった。いま思えば、薄暗い空と息が詰まるような湿気た空気が、さらに彼女の機嫌を損ねていたような気がする。「みのり、どこに行くの」 玄関で見つけた後ろ姿に、訝しく思いながら声をかけると、彼女はなぜかいまにも泣きそうな顔…

邂逅08

 いや、しかし――もしそうだとしても、まだ彼がどういう人間かもわからないのに、それはいささか早計だ。 今回の件に関しては多分、ほだされるとは少し違うような気がする。「懐かしい、って思うんだ」「気になる相手が懐かしいって感じんの?」 ポツリと…

邂逅07

 彼とはほんの少し話をしただけ。だからそんな風に思うには違和感がある。けれど彼のことを思うと、なぜか懐かしい気持ちになる。「なんで、だ?」 不可解な感情に振り回されるような感覚。ここしばらく感情に大きな波がなかったので、余計にもどかしい。そ…

邂逅06

 思わずじっと見つめてしまったが、彼はいまだ視線の先で歯噛みしている男を見下ろしていた。「あんまりしつこいと警察、呼ぶぞ。この辺りは巡回あるの知ってるよな」「……だからなんだ!」 彼の言葉にギクリと肩を跳ね上げたが、男は虚勢を張るように声を…

邂逅05

 僕に気を使ってゆっくりと歩く渉さんの後ろをついて行けば、先ほどまで幾度となく彼がこんなところ――と言っていた意味がわかった。 ここは普通の居酒屋が軒を連ねる繁華街とは、少々様子が違う。行き交う人たちは普段あまり見慣れない雰囲気や組み合わせ…

邂逅04

 慌てて彼らが歩いて行ったほうへ走るが、視線を巡らせてもやはりその姿は見つからない。「どうしようか」 おそらくこれは結構高価なZippoのはずだ。昔、大学の友人にコレクターがいたので、なんとなく見たことがある。交番に届けるか――いや、交番に…

邂逅03

 微かに残る記憶を手繰り寄せて、彼を思い出す。写真に写る二年前の藤堂と僕が出会ったのは多分、寒い――雪が降る頃。 あの日は白い雪空が広がっていた。その時、彼に出会ったのは本当に偶然だった。 年明けの雪が溶け始め、ほんの少し寒さが和らいだ日が…

邂逅02

 微かに残る記憶を手繰り寄せて、彼を思い出す。写真に写る二年前の藤堂と僕が出会ったのは多分、寒い――雪が降る頃。 あの日は白い雪空が広がっていた。その時、彼に出会ったのは本当に偶然だった。 年明けの雪が溶け始め、ほんの少し寒さが和らいだ日が…