はじまりの恋

すれ違い04

 いまどうしようもなく殺意を覚えた。いますぐにでもこの三階の窓から目の前の男を捨ててしまいたい――いや、捨ててしまおうか。 人の神経を逆なでするのが得意な男だと常々思っていたが、それをこの俺にやるということは、よほどのことをなにか企んでいる…

すれ違い03

 晴れ渡った空にゆっくりと流れる白い雲。 窓際に寄せた椅子に腰かけ、俺はぼんやりと外を眺めていた。けれどずっとそんな代わり映えのない景色を見ていると、正直次第に飽きてくる。ため息交じりに室内へ目を向ければ、慌ただしく動き回っている神楽坂の姿…

すれ違い02

 ざわざわとした賑やかな雰囲気の中、ぐるりと辺りを見回し教室の奥を覗き込む。「あれ、いない」 確かめるように何度も視線を動かしてみても、目的の人物は見当たらなかった。 まだ昼休みになったばかりなのでいるかと思ったのだが、定位置である窓際、一…

すれ違い01

 鳴り響く予鈴を聞きながら教室の戸を引けば、ふいに室内の視線がこちらへ集まった。早過ぎる担任の姿を想像していたらしい彼らは、俺の姿を見るなり一瞬だけ驚いた顔をしたが、いつものように口々に挨拶をし、また自分たちの会話に戻って行った。 そんな中…

接近09

 もしかして僕が藤堂に気を許していることがつり橋効果だって言われたのに、藤堂の気持ちもそうだったらって思ってるってことか?「それじゃあ、まるで僕が藤堂を好きみたいだろ」「好きみたいじゃなくて、好きなんだろ!」 目を瞬かせ、まさかと呟けば、呆…

接近08

 いや、でもあれだけオープンなんだから、気づかなかった僕はやはり相当鈍かったのかもしれない。そういえば女の人を口説いているところは見たことがない。「確かになぁ、あいつの場合は、すぐ気に入れば口説く悪い癖があるから、判断は微妙だけどな。それで…

接近07

 周りが顔の整った人ばかりなのに、なぜ自分がそんなに好かれるのかわからない。秀でたところがほとんどない平凡過ぎるほど平凡な僕だ。「佐樹みたいなタイプは結構、モテんだよなぁ」 小さく唸りながらこちらを見る明良に首を傾げると、ため息をつかれた。…

接近06

 もともと渉さんはいつも笑っていて、あまり表情が読めないタイプだ。でも今日は珍しくその仮面が外れた気がする。あんな無表情は初めて見た。それだけ本気ってこと?「……」 ふいにテーブルの上でコトリと小さな音が鳴った。その音に顔を上げて見れば、缶…

接近05

 渉さんの反応に気づいて僕も首を傾げようとした瞬間、身体が勢いよく後ろへ引っ張られた。よろめき身体が後ろへ倒れると背中が温かな壁にぶつかる。「と、藤堂?」 背中に触れたその感触に慌てて振り向けば、藤堂が目の前に立つ渉さんをじっと見ていた。し…

接近04

 通りを抜けきり目的の場所へたどり着くと、僕は上がった息を整えるように両膝に手をつき俯いた。その目の前では藤堂がしれっとした顔で立っている。 こんなところで歳の差を大いに感じて、自分の体力のなさを恨めしく思ってしまった。いや、日頃の運動不足…

接近03

 食事が進むとさすがに藤堂もいつまでも僕を見てばかりではなくなった。ほっと息を吐いてのんびりとスープを啜る。ようやく味がしっかりわかり始めた気がした。「そういえば。藤堂、今日バイトは?」 昼時になり混み始めた店内を見てふと思い出す。飲食店で…

接近02

 しばらく駅前をふらりと歩き、結局手近のカフェに入ることにした。 店内はそれほど混みあってもなくほっとする。正直騒がしい場所はあまり好きではない。店の奥へ案内され、水とメニューを置いて去っていった店員の背中を見送っていると、藤堂はなぜか僕の…