はじまりの恋

接近01

 駅の改札ではひっきりなしに人が出入りを繰り返している。目の前で流れていくそんな人波を眺めながら、僕はふと空を見上げる。青空に白い雲は少なくまさに快晴。本当にいい天気だ。「洗濯でもしてくればよかったかなぁ」 空を見上げたまま、ぼんやりそんな…

告白06

 指先で箱をつまみながら藤堂は僕を見下ろし目を細めた。その目には明らかに呆れの色が含まれている。「食堂へ行くのが面倒と言うのはまだいいとしても、購買に行くならもっとましなもの食べませんか」「ああ、パンとかおにぎりとかってこう、片手に持っても…

告白05

 どうやら僕は普段の大人びた雰囲気と、少年らしい歳相応な表情のギャップに弱いようだ。彼がくるくると表情を変えるのを見ているとなんだか胸が騒ぐ。「わかった、わかったからそんな恨めしい目で見るな!」 耐えきれず、手にしていた鞄から携帯電話を取り…

告白04

 そして案の定、思考停止していた時間の分だけ仕事に追われ、すっかり陽も暮れてしまった帰り道。僕はいつもとは違う、一つ手前のバス停を降り一人歩いていた。「静かだな、ここは」 一本向こうの道へ行けば、忙しなく車が行き交う繁華街がある。けれどいま…

告白03

 ゆるりと口角を持ち上げ、にやりと悪い笑みを浮かべた片平に顔が引きつる。そしてそれと共に背中を冷たい汗が伝ったような気がした。「なにその反応。怪しい、藤堂優哉が気になるの?」「え? あ、それはちょっと色々あって」「ふぅん。そう、色々って?」…

告白02

 一人になった空間で僕はぼんやりと窓の外を眺めていた。 二階の窓から見える景色の中では、わずかに残るピンクの花がゆらゆらと風に吹かれ揺れていた。もうすでにほとんどが葉桜になりかけているが、それでも柔らかい色合いは見ていて心が和むものだ。 し…

告白01

 僕はどこにでもいるような、ごくごく普通の高校教師だ。 けれどそんな自分にごくごく普通ではない、思いの寄らない言葉が投げかけられた。そしてその言葉に思わず口を開けたまま、僕は時間が止まったように身を固めてしまった。 視線の先で彼は、間抜けた…