はじまりの恋

別離20

 昔の藤堂をきっと誰よりも知っているだろう人。一年も一緒にいれば少なからず影響も受ける。自分より大人であるその人に憧れだって感じるかもしれない。 正直言えば、どんな理由があっても未成年を夜の街に連れて行くのはよくないと思う。けれど息の詰まっ…

別離19

 手がかりになりそうなものを手に入れた僕は、ミナトと連絡先を交換して店をあとにすることにした。帰り際にミナトはまたほかになにか情報が入ったら教えてくれると言っていた。 しかしいなくなってまだ一日と経っていないから、数日もしたら連絡が来るかも…

別離18

 好きな人がほかの誰かに向ける視線は、ひどく胸を焦げつかせる。確かにその手を繋いでいても、自分以外の誰かをその目に映すことが我慢できなくなってしまう。好きになればなるほどに、すべてが欲しいと心が騒ぐ。相手を想う気持ちほど厄介なものはない。「…

別離17

 初めて藤堂に会ったのはいまから五年ほど前の梅雨の時期――藤堂がまだ中学一年の頃だ。そして再会したのが中学三年の二月。そこには二年半以上の空白がある。そのあいだに誰と出会ったのか、どんなことがあったのか、それを僕は知らない。 この頃に明良が…

別離16

 藤堂の過去を知るミナトについていけば、なにかがわかるかもしれないと思っていた。だけど蓋を開けてみれば、ミナトの気持ちの行き先が気になったり、僕を諦めるためにほかの誰かと向き合おうとしていた藤堂が気になったり。僕の心はまったく違うことで揺れ…

別離15

 あの日のことはいまでも覚えている。藤堂に再会した日だ。僕はまだ思い出していなかったけれど、あの日の藤堂にすごく惹かれた。優しい眼差しも声も手も仕草も、どれも忘れられない。抱きしめてくれたぬくもりさえ思い出せる。 あの晩の僕たちを知っている…

別離14

 藤堂の住んでいる町は電車で通り過ぎたことはあるがいままで降りたことはなかった。改札は一つ、それを抜けると北と南に出口が分かれている。 駅前はスーパーやコンビニ、商店街などがあり人通りも多いようだ。しかし賑やかという雰囲気ではなくどこか落ち…

別離13

 藤堂の一見した見た目や雰囲気はとても落ち着いていて、迷いや戸惑いなんかないんじゃないかと思わせる。最初の頃は正直言えば僕もそう思っていた。でも一緒にいるうちにそれは弱さの裏返しなんだって気がついた。 藤堂の強さは自分を守るために身に付いた…

別離12

 僕の返事を聞いた新崎先生は少し言葉に詰まるような、苦しそうな顔をした。十年、僕を見てきた人だから、僕のことはよくわかっているだろう。僕は決めたことを譲らない頑固な性格だ。わかっているからこそ深いため息をつく。「この仕事に誇りを持ってやって…

別離11

 新崎先生からの連絡を待ったが、その日に折り返しの電話はかかってこなかった。連絡があったのは翌日になり、藤堂の見舞いにでも行こうかと出かける準備をしていた時だ。話したいことがあるから学校に来て欲しいと言われた。 わざわざ呼び出されるというこ…

別離10

 しばらく固まったように僕は館山さんの顔を見つめてしまった。考えが及ばない話をされて、頭がまったくついていけていない。けれど彼は目の前で肩をすくめるとため息交じりに話し出す。「この事件に色々と圧力かけられてるんで、ほかの容疑者を探してるんで…

別離09

 バスと電車を乗り継いで最寄り駅に帰りついたのは日の暮れた頃だった。冷蔵庫の中身を思い出しながら近くのスーパーで買い物をして、マンションについた頃には外灯に明かりが点っていた。 そして随分と日暮れが早くなったものだなと思いながら、郵便受けを…