はじまりの恋

疑惑29

 僕の声を確認すると一方的に通話は切断され、不通音が耳元に聞こえる。それから数分ほどか、状況整理がつかないまま僕の目の前に現実が突きつけられた。「なんでお前がこんなところにいるんだ」 明良に背中を押されリビングに入ってきたその姿に、思わず口…

疑惑28

 明良の家に来るのはかなり久しぶりだ。今年の初め頃に明良がこのマンションを購入して、引越しの手伝いをしに来た時以来かもしれない。あの時はまだ荷物があってそれほど感じなかったが、ここはなかなか広い部屋だと思う。 一人暮らしだがファミリータイプ…

疑惑27

 清掃点検などの作業が終わったのは日が暮れ始めた頃だった。生徒たちを早々に下校させて、一段落したあとは生徒会のメンバーも早めに帰宅させた。 最後に校内に残ったのは教師陣のみだ。そして時間が過ぎていくと、みんな終わったあとの打ち上げに気持ちが…

疑惑26

 なんだか早く藤堂に会って二人の時間を過ごしたいなと思った。しかし文化祭は十五時半までで、片付けもあるから終わるのは夕方になるだろう。それに生徒より僕たち教師のほうが終わるのが遅いことが予想できるので、まだあと数時間は会えそうにない。だいぶ…

疑惑25

 さすがに優勝を狙うだけはある。カフェとしての完成度はおそらく校内でも一番だろう。ここまで仕込まれるとほかのクラスはちょっと太刀打ちできない感じがする。 ちょっと狡いと思えてしまうが、借り物さえ除けば管理システムも撮影関連の機材も生徒たちの…

疑惑24

 向かう先は校内でも一番広い特別教室。広さは通常の教室二つ分より少し広い。二クラス合同とはいえ随分と広い教室を使ったものだ。 前宣伝もしているだろうし、長い列でもできているのだろうかと予想していたが、いざ教室に着いてみると入り口近くに数人並…

疑惑23

 明確な殺意がそこにあるのかもしれない。そう思うと急に不安が大きくなる。偶然だったのではないかという考えは、あまりにも安易だった。でもそこまでする意図はいまだにわからない。怪我を負わせるだけが目的だとしても、なぜそこまでするのか。「でもよく…

疑惑22

 走り去った制服の犯人は混雑した人波に紛れて行方がわからなくなったようだ。あの場にしばらく立ち尽くしていた様子といい、やはりうちの学校の生徒だったのだろうかという疑念が浮かぶ。 けれどなんのためにあんなことをしたのだろう。ここ最近を思い出し…

疑惑21

 小さな脳みそで僕が尽きないことを悩んでいるうちにも、時間は過ぎていくもので、文化祭の一般公開日はやってきた。 毎年人入りの多いイベントだが、今年は輪をかけて来客数が多いように感じられた。生徒たちの前宣伝の賜物だろうか。賞金がかかっているか…

疑惑20

 目の前にいる相手を信じていたいと僕は思う。でもだからといって人からの助言をまるきり無視することもできない。そんな人と人のあいだで頭を悩ませたことはこれまでも何度もあった。 今回もまさにそんな状況なのだが、それをお前の長所であり短所だな、と…

疑惑19

 基本的に間宮は大人しい。もうちょっとこう押しが強くてもいいくらいだと思うが、いつも困ったように笑い自分の発言をあまりしない。だからほかの先生たちはそんな間宮にあれやこれやと用事を押しつけてしまうのだ。 けれどそのことで愚痴をこぼすかと思い…

疑惑18

 僕の危機管理能力はいつまでたっても甘いと評価を受ける。しかしそれのどれもが予想外過ぎて僕は本当にわからないのだ。 だから目の前でにこにこと笑みを浮かべながら肉を頬張っている、そんな間宮のどこに気をつけたらいいのかがわからない。間宮が学校に…