はじまりの恋

夏日29

 寄り道をしたにもかかわらず車は順調過ぎるほど順調に走り、予想していた時間よりも早く佐樹さんのマンションへとついた。 そしてそれをひどく残念がりながら、車にもたれる月島が佐樹さんの手を握るのを見てかなり苛々としたが、ここまで送ってくれた礼も…

夏日28

 出発した車は渋滞にはまることなく順調に走っていた。けれど少し進んだ先にあるサービスエリアが近づくと、月島が急にそこに寄りたいとごねだす。寄ってどうするんだとため息をつく瀬名に月島は腹が減ったと口を引き結ぶ。ついでに地酒かワインと言えば、ま…

夏日27

 時刻は十六時三十分――きっちり時間通りに撤収作業を終わらせ、あずみを筆頭にぞろぞろと写真部員やほかの参加者も公園外へ移動し始めた。 そしてその後ろを歩いている佐樹さんの近くを峰岸と間宮と三人で歩いていると、公園の管理者に挨拶を済ませたらし…

夏日26

 峰岸に言われた通り一度味を占めてしまうと、いままで出来たはずの我慢が利かなくなってくるようだ。けれどまたあの時のように触れられなくてもいい。せめてこの手に繋いで、抱きしめていられるだけでもいい。いまの俺はそれだけでも幸せが有り余るほどに思…

夏日25

 ほどなくしてあずみや弥彦たちと合流した俺たちは、佐樹さんが自由行動出来ることもあり、園内を回って歩くことにした。何度となくほかの部員たちと鉢合わせになり、写真を求められ断る俺とは反し、峰岸は声をかけられれば然して気にすることもなくそれに応…

夏日24

 人は愛することを覚えると、目の前にある景色が色鮮やかに変わる。きっと瀬名もそんな感情を覚えたのかもしれない。いつも月島を見る目は眩しそうに細められる。愛おしいという感情を隠しもせずに、ただまっすぐにその姿を見つめていた。 あんなに迷いなく…

夏日23

 餞別の代わりにもらっておくと唇に指先を当てて笑った峰岸は、軽い足取りで月島の傍へ寄っていった。先ほどの写真を見せてもらっているのか、その表情は実に楽しげだった。そんな様子をぼんやり見ながら、峰岸の言葉の意味を考える。 餞別――それは多分き…

夏日22

 昼休憩が終わると月島はすぐさま俺と峰岸を捕まえてカメラを手にした。乗り気ではないのが思いきり顔に出ている俺とは違い、峰岸はさして気にもせず月島について行く。 その少し後ろを瀬名という男が大きな鞄を肩にかけついて歩く。食事の時もほとんど口を…

夏日21

 先ほどから目の前で落ち着きなくうろたえている佐樹さんの姿を見て、心の内側に少し苛々が募る。その隣で至極楽しげに笑っている月島を見ているとさらにそれが増した気がした。この二人は友達という括りで見ても、距離感がやたらと近い。それに対して慣れな…

夏日20

 相変わらず峰岸の愛情表現は捻くれまくっている。気に入った相手をからかったり、いじめたり、それはまるで小学生のようだ。「なぁんか、可愛いね。ほのぼのする」 二人のじゃれあいを見ながら彼らの向かい側に座ると、のんびり近づいてきた渉さんがベンチ…

夏日19

 随分と久しぶりにカメラに触れた。自前のカメラはそんなに本格的なものではないけれど、写真を撮るのは久しぶりで、シャッターを切る瞬間の楽しさが蘇ってくる。 カメラは目の前にある感動や喜び、様々な瞬間を写し撮り、切り取ることが出来る。それは当た…

夏日18

 視線をそらしたままこちらを見ない藤堂に首を捻っていると、なにやら悩ましいため息を吐き出される。それでもなおじっと見つめていると、そろりと視線がこちらを向いた。その目はひどく落ち着かない様子で、少し右往左往と泳いでいる。「佐樹さん、あんまり…