長編

始まりの日02

 遠い地に一人で旅立って四年と半年ほど、彼は自分の手で未来を切り開いて帰ってきた。本人は周りの人に助けられたから、自分だけの力ではないと言うけれど。それでも今日という日を迎えられたのは優哉が頑張ってきたからだ。 きっとここはたくさんの人が集…

始まりの日01

 外を吹く風が身体に染みるようになった十一月の終わり、ささやかだけれどとても温かい催しが開かれた。場所は町中の小さな一軒家を改装したレストラン・フェリーチタ。オープンを明日に控えた新しい店だ。 この店の名前は「幸せ」という意味の言葉から由来…

03.小さな日常

 いつも二人だけの夜はベッドにもつれ込んで睦み合うのが常だが、その日ばかりは大人しく布団に潜り込み、翌日の楽しみを語りながら眠りに落ちた。小津が隣にいると光喜はぐっすりと眠れるのだが、今日は特によく眠れた気がする。 目が覚めた時には頭がすっ…

優しさは恋の味

 いままでの光喜はその日と言えばもらうことしかしてこなかった。誰かに贈るだなんて考えもしていない。だからショーケースの前で真剣に悩む日が来るなんて想像もしたことがなかった。 けれどかれこれ売り場を歩いて三十分。ウロウロと行っては戻りを繰り返…

二人の熱が触れる

 新しい年のはじまりは除夜の鐘の音とともに迎える。深夜とも言える時間帯にもかかわらず新年の参拝に向かう人の数は多い。その流れに少しばかり人の目を引く二人連れが混じる。 一人はほかの人たちよりも頭二つ分ほどは抜きん出ている高い上背と大きな体躯…