第17話 これからの関係を改める
はあ、と重たく長いため息が室内に響く。 一真の視線の先には顔なじみの医師がおり、呆れた声音で予想どおりの言葉を発した。「疲労とストレスで、穴が空いてますね。何度か血、吐いてませんか?」「なんか、黒っぽいの」「それ、それです」 老齢の医師は…
眠り姫は黒猫な王子のキスで目覚める長編
第16話 タイミングの悪い自分を恨む
駅まで二人、のんびり笑いながら歩いていたら、ふと学生時代を思い出す。 昔は微妙な三角関係で、一真が先に優哉を好きだったのに、自分のせいで辛い思いをしているのでは――と、西岡になにかと気を使われた。 それはまったくもって、彼の杞憂だったのだ…
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第15話 ようやく終わった昔の恋
もし想像が確かなら――優哉は西岡以外には絶対振り向かない一途な男だ。 一真のように寂しさを紛らわして関係を持つ、いい加減な人間とは違う。 希壱に比べられたらと思うとゾッとする。「情緒不安定?」「こいつは意外と繊細なんですよ」「優哉のほうが…
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第14話 深い闇の底を覗いた
翌週の日曜日。 念のため、事前に西岡の予定を聞き、確認をとってから出かける。 しかし聞くまでもなく、これから行く場所にいるとわかり、相変わらずだなと一真は心の中で笑った。 行き先はそこまで遠くない。電車を一度乗り換えて、三十分程度。駅から…
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第13話 前へ一歩、踏み出す勇気
昼食を済ませたあとは、お互いなにをするでもなく、ぼんやりとデジタル配信の映画を観たり、ぽつぽつなにげない会話をしたり。 半分くらい、一真は居眠りしていたような気がした。 だが最初に言っていたように、希壱は傍にいられれば十分と、文句一つ言わ…
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第12話 眠り姫はまだ目覚めない
希壱と約束をした日。正直言えば、気乗りしなかった。 とはいえ一方的な一真の感情で、約束を反故にするわけにはいかない。 渋々、出かける準備をしていた一真は、そろそろ家を出なければという頃に響いた、インターフォンの音に眉を寄せる。 休日の午前…
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第11話 わずかなすれ違い
年度末の忙しさから抜けきらず、間を置く暇もなく、一真が新年度の忙しさに忙殺されている頃。 週に三日くらい来ていた希壱も仕事をし始め、ぱったりと来なくなった。 かといって連絡が途切れたわけでなく、メッセージは毎日届いており、電話もたまにかか…
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第10話 黒い外猫、飼いました?
早く自分のものに――最後の一言が希壱の最大の願いだったのだろう。 あの晩から、わかりやすいアプローチが増えてきた。 一真が忙しくて時間を作れないと、ちゃっかり家にやって来ては泊まっていく。「俺は外猫を飼った覚えは全然ねぇんだけどなぁ」 部…
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第9話 猫に手を噛まれる
一真が住むマンションに着くと、希壱はそわそわと落ち着かない様子を見せた。 よその家にもらわれてきた猫のよう――だが、なんでも猫に変換しては駄目だと、一真はポンと頭に浮かんだ黒猫をかき消した。「なにか珍しいものでもあるのか?」「そういうわけ…
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第8話 なぜそうなった?・再び
あのあとどうなったかと言えば、会うのを避け続けた反動なのか。 希壱と週に一回は会うようになった。もちろん一真の要望ではなく、これでもたびたび断っている。 毎日でも会いたい。などと馬鹿なことを言うので、社会人はそこまで暇じゃないと返していた…
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第7話 ブレブレの感情
口説かせてほしい――そう言っていた希壱だけれど、無理に自分の気持ちを一真へ押しつけてこない。 少しずつ少しずつ歩み寄ろうとする、いじらしさが文面や声から伝わってくる。ゆえになおさら一真は身動きが取れない。 人間関係の築き方をもっと経験して…
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第6話 不器用すぎて嫌になる
言葉を濁していた理由が、まさか自分を口説こうと考えていたから、などと誰が想像するだろう。 突然の宣言のあと、希壱とどんな会話をしたか、一真はよく思い出せない。 いつから一真を意識していたかなど、言われた気もするけれどさっぱりだった。 結果…
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