長編

第11話 わずかなすれ違い

 年度末の忙しさから抜けきらず、間を置く暇もなく、一真が新年度の忙しさに忙殺されている頃。 週に三日くらい来ていた希壱も仕事をし始め、ぱったりと来なくなった。 かといって連絡が途切れたわけでなく、メッセージは毎日届いており、電話もたまにかか…

第9話 猫に手を噛まれる

 一真が住むマンションに着くと、希壱はそわそわと落ち着かない様子を見せた。 よその家にもらわれてきた猫のよう――だが、なんでも猫に変換しては駄目だと、一真はポンと頭に浮かんだ黒猫をかき消した。「なにか珍しいものでもあるのか?」「そういうわけ…

第7話 ブレブレの感情

 口説かせてほしい――そう言っていた希壱だけれど、無理に自分の気持ちを一真へ押しつけてこない。 少しずつ少しずつ歩み寄ろうとする、いじらしさが文面や声から伝わってくる。ゆえになおさら一真は身動きが取れない。 人間関係の築き方をもっと経験して…