長編

第5話 なぜそうなった?

 日差しで焦げるか溶けるか、と思うほどであった、暑さが和らぎ始めた頃。これからは自分と、と言っていた希壱とは月に数回、会うようになっていた。 大抵が飲みか食事だが、時間があるときは映画に行ったり、買い物をしたり。友人らしい付き合いである。 …

第3話 なぜだか懐かれた

「好きなもの、飲んで食べていいぞ」 希壱の最寄り駅で降りて、馴染みのある居酒屋に入った。邪魔をしてしまった詫びをしようと、一真は最初からおごると決めていた。 それを聞いた希壱は初めこそ遠慮をしたが、席に着く頃には一真の言葉を受け入れて、楽し…

第2話 夏のはじまりと再会

 ミサキと初めて会ったのは、一真が高校生の頃だった。そこから付き合いが十年以上も続くと、知られていることも多い。 元カノ、元彼、フラれた相手まで。「相変わらず繁盛しているな」 とりあえず話を変えようと、一真は視線をほかの場所へ移す。 店は大…

第1話 浮かれない夏

 すっかり日が暮れた週末の夜。 バスの窓から見える大通りは、いつもと雰囲気が違って見えた。 夜の明かりに変わった街中は、仕事終わりの勤め人が多く歩いている。しかしそれ以上に駅や繁華街へ向かい歩く、プライベートを過ごす人たちの姿が目に留まった…

帝都へ向かう道

 デイルが公爵領の騎士として仕事を始めて数ヶ月ほど経ち、気づけば建国祭が近づいていた。 二人の記憶に残る運命の日だ。 今回はユーリが祝う立場なので、帝都へ向かうこととなった。 公爵領から帝都までは視察で旅した時は距離を感じたが、今回はのんび…

同じ時を生きる

 宮殿に戻り、ミハエルの死去を伝えるとルカリオは痛ましげに顔をしかめた。 たとえ国に災いを為すため暗躍していたとしても、大切に思っていた弟の死だ。 心に様々な感情が溢れていただろう。 ミハエルに手をかけたデイルは、一向に目覚めないので、誰し…