長編

すべての終わり

 ユーリがデイルの治療を行っているあいだ、ミハエルはなにも仕掛けてこなかった。 無駄な真似をしていると呆れているのか。「お願いだ。ディー、僕を置いていかないで」 槍はわずかにデイルの心臓をそれていた。けれどすでに脈はない。 傷を塞いだだけで…

花咲く場所へ

 調査員がミハエルを見かけたという場所は、フィズネス領とユーリアの墓所の境目だったという。 周囲は毒も拡がっておらず、危険はないけれど、さすがにユーリ一人で行くのは無謀すぎるので、デイルが同行することとなった。 しかし同行者がデイルで大丈夫…

帝国建国の秘話

 初代皇帝が八番目の王子であったと言う史実は本当だった。 ドラゴンが彼に地を貸し与え、帝国の地を治めていけるよう、魔力も貸し与えた。 ただし、ドラゴンは友であった少女の願いを聞き、皇帝となった八番目の王子――ディアランに、力を与えたのが真実…

神を祀る村

 声の主は先ほど水を持ってきてくれた少年――タムだった。 ユーリもデイルも部屋に扉がないのを、うっかり失念していた。 声が気になって覗いたら、ベッドで二人――なんて場面、少年には刺激が強かっただろう。 慌ててユーリたちが身を起こすと、彼は後…

いざ幻の村へ

 ホートラッド山までの道のりは、決して険しいものではなかった。しかし護衛がデイル一人になったので、負担をかけまいとユーリは気を張ってしまったようだ。 山の麓の森に着く頃、疲れが出たのかここに来て熱を出した。「ユーリさま、ご気分は? 体は痛く…

幻と夢の残滓

 気づくとユーリは魔法局の裏側にあった、小さな秘密の空間にいた。 うっかり迷い込まなければ見つからないだろう場所。 椅子に座っているユーリの隣には長い黒髪の彼がいる。少しくせ毛で、手入れをきちんとしないから、いつも所々跳ねていた。『ユーリ?…

心によぎる面影

 解毒薬の試作から、完成品が出来上がるまでは思った以上に早かった。ユーリたちがどこから回っていくか、情報の整理をしている数日のあいだ。 製薬をするために使う材料や魔道具の動力――魔力――を四人も助力したが、予想以上の速さで頭の下がる思いがす…