知らぬ間に筒抜けになっていた。それにはひどく驚いたものの、義昭が好意的であったので、早い段階で知られたのはかえって良かったのではと思えた。
こそこそと付き合っていくのは、やはり限界がある。
男としても歳の離れた恋人に大して、責任は持つべきだ。淳がずっと親に嘘をついている状況であることも、気にかかっていた。
彼の家は親一人子一人なので、なるべくなら後ろめたい思いはさせたくない。
二人の関係を公にするつもりは一切ないけれど、身近な人間は味方に付けておくほうがいい。これから先、雅之だけで解決できないことも出てくるかもしれない。
「こんばんはぁ」
ぼんやりと考え込んでいたら、玄関のほうから声が聞こえてくる。ちらりと壁掛けの時計を見れば、日付が変わっていた。
今日も随分と遅かったのだなと、淳を出迎えるために雅之はソファに預けていた身体を起こした。
「お疲れさま」
玄関に続く扉を開くと、近くまで来ていた淳と目が合う。瞬いた瞳に笑みを返せば、彼はすぐに柔らかい笑顔を浮かべた。
「ごめんなさい。こんな時間になっちゃって。希くんもう寝てますよね?」
「うん、寝かしつけちゃったよ」
あっくんあっくんと騒いでいた希も、ご飯を食べてお風呂に入るとすぐに睡魔に襲われた。
それでもしばらく頑なに寝ようとしなかったのだが、明日になったらあっくんが来るよ、と言ったら大人しく寝てくれた。
「遅くまでご苦労さま」
「ありがとうございます」
近づいてきた淳を、雅之は両腕を広げて抱き寄せる。腕の中に閉じ込めるようにぎゅっと包み込むと、おずおずと背中へ腕が回されて、首筋に柔らかい髪が触れた。
すり寄るようにしてくる仕草がひどく可愛くて、お日様色の髪を優しく撫でながら、さらに身体を引き寄せる。
「キス、してもいい?」
鼻先が触れるほどの距離。じっと瞳を覗き込むと少しだけ目を泳がせてから、淳は小さく頷いた。それを認めて、雅之は期待を含ませた瞳で見つめてくる彼の唇に触れる。
二人の唇が合わさると、長いまつげに縁取られた瞳がゆっくりと閉じられた。
「んっ……」
やんわりと唇を食むように口づけながら、たっぷりと柔らかさを味わう。そうするとその先を請うように淳の唇が開かれ、赤い舌がちらついた。
無意識の色香がにじみ出して、喉が鳴りそうになる。
誘われるままに雅之が舌を滑り込ませれば、舌先に彼のものが絡んできた。積極的な反応に、さらに深く唇を合わせて、水音がするほど舌を絡め合わせる。
「はあっ、……んっ、雅之さん。ぁっ」
口の中を唾液が滴るほど愛撫して、唇を離すと色づいた彼の唇がやけに目についた。口の端にこぼれた唾液を指先で拭うと、淳の肩が小さく震える。
潤ませた瞳で見つめてくる、それに雅之は欲を煽られた。
これまで雅之の性癖は至ってノーマルだった。どんなに可愛い男の子が目の前にいたとしても、こんな風に手の内に収めてすべてを暴きたくなる、そんな気持ちにはならない。
ましてや淳は中性的というタイプでもない。平均的な成人男性よりも背が高く、身体つきもしっかりしている。
顔立ちは愛嬌があって可愛いが、美しいと言うよりは一般的に格好いいと言われる部類だ。
けれど雅之は彼を見ていると、たまらない気持ちになる。
「ご飯は食べた?」
「食べてきました」
「じゃあ、カフェオレでも淹れてあげようか」
「はいっ」
耳の縁に口づけると、いつも明るい笑みを浮かべている淳の顔が、ぽっと頬を染めた恥じらう表情に変わった。
気持ちはいますぐにでも押し倒してしまいたい。だがあまりがっつきすぎるのも大人げない。
彼の前ではできるだけ紳士でいたい、そう常々思っている。それに加えこんな可愛い子を逃してなるものか、そんなことも考えていた。
こんなにどっぷりと、相手にハマるのは雅之にとっては初めてで、まるで初恋のような気分だった。
「そういえば、淳くんは園長先生にカミングアウトしてたの?」
キッチンでミルクたっぷりのカフェオレを作りながら、雅之は気になっていたことを問いかけてしまった。
どこまで希が話しているのかは定かではないが、楽しそうにしていたからと言って、すぐに付き合っている、とは繋がらないはずだ。
ふと顔を持ち上げると、ソファに座っていた淳がこちらを振り返っていた。その顔に雅之が首を傾げてみせたら、少し考え込むようにしてから唇が開かれる。
「えっと、言ってたわけじゃないんですけど。なんだか早いうちから気づいていたみたいで」
「ふぅん、そっか、ずっと前から知ってたんだね」
なにかヘマをしたのかとも思っていたが、自分たちの関係に気づくのが早かったのは、息子のことをよく見ていたからこそか。
淳は素直な性格をしているので、余計にわかりやすかったに違いない。
思えば付き合う以前から、淳の気持ちは疎いと言われる雅之にも丸わかりだった。付き合うようになって、目に見える変化が大きくなったのだろう。
疑問がようやく解けた。
けれど一人納得をした雅之に、淳は不思議そうな顔をする。まっすぐに見つめてくるその瞳に、安心させるように笑みを返した。
「ああ、今日の帰りにね。園長先生に、淳くんをよろしく頼むって言われて」
「えっ!」
「あっ、淳くんっ」
声を上げて驚いた淳は、身体が跳ねた拍子にテーブルに足をぶつけたようだ。ガタンと音が響いて、慌ててそちらへ向かったら、頬のみならず耳まで紅く染まる。
「す、すみません。バレてるとは思わなくて」
「うん、僕もビックリしたけど。すごく好意的だったし、知っておいてもらえると心強い気がしたよ」
「それなら、いいんですけど」
「大丈夫だよ。……はい、これ飲んで落ち着いて」
「はい」
そわそわとした様子を見せる淳に、マグカップを差し出すと、そろりと手が伸びてくる。
その手にカップを引き渡して、雅之は彼の隣に腰を下ろした。そして隙間を埋めるように身体を抱き寄せる。
「まあ、僕は園長先生に怒られても、君を手放せる気はしないんだけど」
まだ熱の引かない耳へ唇を寄せれば、首筋まで赤くなっていく。もう何度も触れているのに、うぶな反応を見せる彼が可愛くてたまらない。
しかし無意識に持ち上がっていた口の端に気づき、雅之は努めて冷静を装った。
「淳くん、林檎みたいになってきたよ」
「だ、だって、雅之さんが」
「くっついてるだけなのに」
「ど、どきどきする」
「可愛いね」
俯きがちになった顔を指先で持ち上げて、うろたえた表情をする彼の唇にキスをする。驚きに瞬いたまつげが、頬に触れる感触がした。
目を開けば瞳はぎゅっと閉じられていて、必死な様子がまた可愛くて仕方がない。
先ほどよりも深くねっとりと口づけを交わすと、淳はもじもじと膝を揺らし始める。それに気づいて雅之はそっと手を伸ばした。
「ここキツそうだね」
「え、と、……その」
羞恥で潤んだ瞳は右往左往と視線をさ迷わせる。それでもきゅっとそこをきつく握れば、上擦った小さな声が漏れた。そしてなにかを言いたげに見つめてくる。
「せっかくカフェオレを淹れたけど。これはまたあとでにしよっか」
「……は、はい」
彼の両手を塞いでいたものをそっと取り上げて、それをテーブルの上に置く。コトンと小さな音が響くくらい、部屋の中は静寂に満ちていた。
黙っていたら淳の胸の音が聞こえるのではないか、そう思えるほどだ。
手を伸ばして、するりと腰から胸元まで滑らせる。触れたそこからは手の平に伝わるくらいの心音を感じた。その音にまた雅之の口元が緩む。
「雅之さん」
胸の音を聴いていると、焦れったくなったのか、淳の両腕が伸ばされた。それが首元に絡み、引き寄せられるままに雅之は彼の無防備な首筋に歯を立てた。
そのままソファへと身体を押し倒せば、さらに腕に力が込められる。
「ぁっ……んっ、あっ」
身体をまさぐるたびに、鼻先から抜けた甘い声が響いて、もう理性が焼き切れる寸前だ。思わず乱暴にしてしまいそうになって、大きく息をつく。
「んっ、んっ、……まさ、ゆきさんっ、欲しいっ、あっ、早くっ」
「淳くん、すっかりおねだり上手になったね」
「あっ、ご、ごめん、なさい」
「いいよ、僕も淳くんが欲しい」
手を這わせ、シャツの上から胸の尖りを指先で引っ掻く。すっかり刺激を覚えた身体は、それだけで熱を孕ませる。
デニムの下で窮屈そうにしている熱を取りだしてやれば、か弱く震えながら蜜をこぼした。
「ぁっあっ、すぐイっちゃ……」
「いいよ。キツいでしょ。一回イっておきな」
手の平でじっくりと扱いていくと、涙を浮かべてしがみついてくる。それでも身体は正直で、刺激を求めるように腰が揺れていた。
熱に浮かされた目で見つめられると、その熱が移る。
痛いほど張り詰めたものを取りだして、雅之は淳の熱に重ねた。そのことに気づいた彼は、さらにこすりつけようとする。
「淳くん、すごくやらしい」
「ぁっ、……イ、クっ、イクっ、あっ」
大きく響いた声を唇で塞いで舌を優しく噛むと、ビクビクと身体を跳ね上げて淳は欲を吐き出した。
それに続いてこらえきれなくなった雅之の熱も弾ける。ドクドクと脈打つたびに、トロトロと二人分の蜜がこぼれていく。
「淳くん」
「雅之さ、ん、もっと」
「うん」
「まさっ、おしっこっ」
「えっ?」
シャツをたくし上げて、さらに唇を寄せようとしたところで、この雰囲気にそぐわない声が聞こえた。その声に二人揃って肩を跳ね上げる。
身体を起こしてソファの向こうを見れば、開いた扉の傍で希がまぶたをこすっていた。
慌ててティッシュで汚れを拭い、くつろげたズボンを元に戻す。そして驚いたまま固まっている、淳の肩を叩いてから、雅之は急いで息子の元へ駆け寄った。
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