時間が刻刻と過ぎていく。いつもなら早く帰って風呂入って寝たい! なんて思い始める時間なのに、いまはずっとここにいたい。って、また終電女に逆戻りかよ! さっき交代のやつが店の前にイケメンが二人も立っててびびったとか、話しかけてくるから死にたくなった。
「笠原くん、時間だよ? もういいよ?」
カウンターにしがみつきたい気分の俺に店長が死刑宣告をしてくる。油の切れたブリキ人形みたいな動きで振り返る俺は、これまたぎこちないひきつった笑みを返した。それに目を丸くされて、大きなため息と共に諦める。
渋々バックヤードに引っ込んで、更衣室で着替え終わるとダウンジャケットを羽織った。しかしやっぱりここから出たくない。
大体さ、告白の返事を聞きに来ている男に、付き合おうとか言ってきている男をダブルブッキングさせている俺って、かなりサイテーじゃない?
いやいや、俺はどっちとも付き合う気ないし。どっちも丁重にお断りするし、イケメンなんて面倒くさい。あれ? そもそも
「まあ、どっちでもいい。関係ない」
どうせノンケ男は振るんだし、どうせ光喜とは付き合わないし、どうせ――。
「お疲れ様」
「お疲れさまです」
従業員出口を出て正面に回ったら、二人同時に振り返られた。しかも声がハモったし!
目の前で顔を見合わせている二人に、いますぐ走り去りたい気持ちになる。しかし解決しなければ堂々巡りだ。いまはここですっぱりきっぱり!
「勝利」
「笠原さん」
うぉぉー! やめてくれこの恋愛ゲーム的な展開! 近づいてきた二人がまた同時に俺を呼ぶ。そして並んで目の前に立った。けれど一歩下がろうとした俺の腕を光喜が掴む。
「勝利、この人が告白してきた人でしょ? ほら断って、今日から俺と付き合うから付き合えませんって」
「え?」
光喜の言葉に目の前のノンケ男の顔が急に真顔に変わった。そのわかりやすい変化に思わず乾ききった笑いをしてしまう。
「笠原さん、どういうことですか? どう見てもいままでの相手とタイプが違うと思うんですけど」
確かにそう、全然違うさ、そうだけどさ。ねぇ、なんで俺の歴代彼氏のタイプを知ってんの!
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